失敗と成功の狭間(六)
「高い!」「冷蔵庫で三百万はない!」「あいつそんなにしたの?」
また一人、違う感想の人が混ざっていたようだが、弓原は苦笑いで『まぁまぁ』と、『高い』苦情を抑えるのに必死だ。
「こちら二台を背面同士で接続設置することで、接地コストをお安くできたり」
そう言いながら『二棟同時設置の場合』を指さしている。つまり単独で設置すると、もっとお高い訳だ。
参加者は『普及しなかったのは値段だよ』と思って頷いている。
琴美も納得して頷いていた。長年、凄く不思議だった思い出なのだが、その『理由』が今解ったからだ。
拾った猫を両親にバレないように棚で飼っていたら、お隣さん家が『大騒ぎ』になっていたことを、思い出していた。
あの『フワフワ』寝床に丁度良いと思っていたら、断熱材だったのかぁ。道理で。うんうん。
琴美の中でそれは『平和な日常の一コマ』であり、『社宅を出て行くことになった理由の一つ』とは、思ってはいないようだ。
両親が『子供に対する機密の扱いに長けている』と、言えなくもないだろう。
「このように『冷蔵庫とパソコンを一体化』させることで、家庭内で問題となっていた『家電の様々な不具合』を解消させることができた訳ですが、残念ながら売れなかった原因について、皆さんにも考えて頂きたいと思います」
「自分の洗濯物を、お父さんの下着と一緒に洗うのを止めて欲しかったのですが、それは出来たのでしょうか?」
琴美の質問は、まるで小学生からの質問のようだったが、ちゃんと『メーカーの公式見解』を、聞いて置きたかったのだ。
すると弓原は『解る解る』と頷いて琴美を笑顔で見つめ、『洗濯機オプション』の所に移動して手で示す。
「当時の技術力では難しい点がありまして」
渋い顔で琴美に『納得』してもらおうとしている様子が伺える。
確かに父はその時、『そんな機能は無い!』と、琴美に断言していたのだ。
「下着を全て顔写真と一緒に撮影して、サーバーに格納して頂くか」
そう言って『オプション1』を指し示す。
「新しい下着を買う度に、登録が必要になりまして」
そう言って弓原が、見えない下着を顔の横に持ち上げ、男子学生の方に目配せして揺すっている。
「おぉー」「それはけしからん!」「機密漏洩で家族会議だ!」
そんな男子達の感想は捨て置き、『どうせ可愛いの身に付けてるんでしょ?』と、琴美は直ぐに納得するしかない。
「あぁ、じゃぁ良いです」
手を振って、まるで購入するのを断るようだ。
「あら、よろしいのですか? オプション2は『洗濯機を二台』設置頂くことで解決できます。こちらは如何致しましょう?」
「そっちも良いです!」
思わず叫んだ琴美を見て、弓原も笑っている。
琴美は思った。たまには父も『本当のこと』を言うのだと。




