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失敗と成功の狭間(五)

「こちらの冷蔵庫はですね、家族一人に一台づつのリモコンで、管理を分散する仕掛けとなっておりまして」

 家族がリモコンを『天井に向けて操作』している不思議な絵を指している。

「各部屋の天井には人感センサーや、火災報知器がありまして、その機能の一つとして『リモコンの受信機』としても機能があります」

 弓原はそう言って天井の危機を指さすと、そこから冷蔵庫を通じて、各家電に電灯線LANで指令が飛ぶ様子を表現した。


 琴美は『そうそう』と頷く。

 だから寝るときにエアコンの設定温度を巡って、父と母の壮絶なリモコンオンオフ合戦が繰り広げられたものだ。


「お父さん、お母さんの好みの温度を設定しておけば、お父さんのリモコンでオンした場合はお父さんの好みの温度、お母さんのリモコンでオンした場合はお母さんの好みの温度と、使い分けることができるのです」


 ドヤ顔で説明する弓原を見て、周りは『なるほどぉ』なんて言っているが、現実はそう甘くはない。

 互いの電池を放り出すまで戦っていた日々を知っているだろうか? それはもう壮絶な戦いであった。

 今の琴美にして思うことは、よく離婚しないで来れたなと、思うだけだ。


「このような温度設定の好みや、使用時間の設定は、冷蔵庫のサーバ内に情報が保存されていますので、エアコン本体を買い替えても、設定を引き継ぐことができます」


 エアコンを買い替えることなんて、引っ越しするまでなかった気がする。


「あのぅ。その冷蔵庫、値段はお幾らだったんですか?」

 既に何処からが『本体価格』で、何処からが『オプション』なのか判らなくなっているが、まぁ、ざっくりでも良い。


 説明が長かったのだろうか。それとも売れなかった理由は『価格だけ』と結論付けたかったのだろうか。学生一人の質問に、弓原の顔が曇る。


「あっお値段ですかぁ?」

 弓原は『まだ説明中なのになぁ』という感じを出しつつも、苦笑いで『価格はこちら!』と、大きな付箋紙で隠された所に移動して来た。その大きな紙に手を掛ける。


「先に知りたい感じですか?」

 通販番組でも見て研究し、今日の説明の構成を考えて来たのだろうか。笑顔で質問を返すと、その反応を見て弓原も大きく頷いた。


「お値段、何と三百五十七万円です!」

 小さく『消費税別』と書いてあるのは良しとして、その下の『二棟同時設置の場合』と書いてあるのは、何だ?


「どうですか? 思ったより、お安くないですかぁ?」


 絶対アンタは買わなさそうだよネッ! と、琴美が叫んだとか。

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