試験(九)
ジャパネットとは、インターネットの技術を使って日本国内に設置された、言わば国内専用インターネットである。
掲載される情報は、原則として日本語であることが求められる。
ジャパネットに接続するには、情報省が行うジャパネット接続技術者試験に合格する必要がある。
ジャパネット接続技術者試験には、
クリッカー(五級)
インプッター(四級)、
センダー(三級)
レシーバー(二級)、
ハッカー(一級)がある。
クリッカー(五級)は、画面に表示された情報をクリックすることができる。入力欄への文字入力は不可である。
電子メールを使うには、全て設定されたものについてのみ、使用ができる。
また、物品購入や遊興行為は、専用のソフトウェアを介してのみ行える。
インプッター(四級)は、ホームページや掲示板に文字を入力することができる。
電子メールは自己管理にて送受信できるが、ファイルの送受信は不可である。
センダー(三級)は、ジャパネット内にて、ファイルの送信をすることができる。
また、プロバイダが用意したスペースに、自己のホームページを作成することができる。
レシーバー(二級)は、ジャパネット内にてファイルを受信することができる。サーバーを設置して、情報サービスを提供できる。
ハッカー(一級)は、ジャパネット利用について、模範的であることが取得の条件である。
なお、サーバー設置条件として、二十四時間で千人以上のアクセスがある場合、設置責任者はハッカーでなければならない。
琴美は自分が所有しているのがインプッター(四級)であることを理解した。いつ取ったのかは思い出せない。
どんな試験だったかも、合格して嬉しかったことも思い出せない。
しかし、小学生の弟もクリッカー(五級)であることから、そんなに難しいものではないのだろう。
きっと、自転車に乗るくらいに簡単な試験のはずだ。
ふと思い出して、琴美は東京大学のホームページを訪れた。
いや、琴美がそこを受験しようとしていた訳ではない。
琴美は自分でも少々照れながら、東大のホームページから受験要項のページを探し出し、その内容を確認した。
『受験を希望するには履歴書を送付する必要があり、ジャパネット接続技術者試験のセンダー(三級)以上の資格が必要です』
そう書かれていた。琴美は思い出した大学の名前を適当に検索し、同じ様に募集要項が書かれたページを見る。みな同じだった。
そして、四つ目の大学の募集要項から、ジャパネット接続技術者試験の案内ページに飛んだ。
そこは文字だけの簡素なホームページで、暖かくもなく、親しみもなく、いかにもお役所っぽいホームページであった。
『ジャパネット接続技術者認定試験 試験時期・随時』
そう大きく書かれた文字を読んで「へー」と思う。
いつでも受験できる様だ。琴美は不意に、机の下に落ちているパンフレットに目が行った。
『ジャパネット接続技術者認定試験のご案内』
ホームページと同じ書体で書かれている文字があった。
琴美はそれを拾い上げたが、少し分厚い感じがする。意外だ。
琴美は表紙を捲って、中身を見た。
「へー。法律とかの講習があるんだ」
口をへの字に曲げて、琴美は呟く。
その申し込み用紙には日程も載っていて、午前中に法律の講習があり、午後に試験が行われるとあった。
一日で終わるなら良いかと思った琴美は、そのパンフレットに書いてあるアドレスを打ち込んで、申し込みのページを表示する。
画面に従って入力をし、センダー試験(三級)の申し込み準備を整える。切り替わった確認画面を見て、完了ボタンを押そうとした。
「ん?」
はたと手を止める。そこに表示された警告に驚いたからだ。
そこには、思いもよらぬ言葉が書かれていた。
『センダー以上の資格者は、問題が起きたときの被害額・及び対策費を保証する義務が発生します。よろしいですか?』
琴美は『中止』ボタンを押す。そして、イスにもたれかかった。
何か、インターネットを使うのが面倒に感じられる。
いやジャパネットか。もう、どっちでも良い。
とにかく琴美は、頭を掻いた。




