失敗と成功の狭間(三)
「こちらの冷蔵庫、一体化しているのは何もパソコンだけではなくてですね」
そう言いながら弓原はパネルの前を移動して、食器棚の前に立つ。
「このように『食器棚』の扉とも連動しています」
扉をパタパタ開閉すると、小さなLEDライトが点滅している。
琴美は思い出して『そうそう』と頷く。懐かしい仕掛けだ。
「何の為にですか?」
誰かの質問に、琴美は得意げに説明をしようと思ったのだが、それは止める。
今日は説明する立場ではないし、自分はあのお姉さん程、奇麗じゃないから。って! 何だってっ?
「こちらの機能は、収納されている場所を指し示すものとなっておりまして」
そう言いながら、琴美より奇麗なお姉さんの弓原が、にこやかに上の戸棚を指し示す。LEDは消灯している。
「『土鍋』はどこかしら。はい。『ピコーン』と、こんな感じです」
弓原は擬音を入れてLEDが点灯するのを確認すると、手を伸ばして扉を開ける。
そして中から『土鍋』を取り出すと、笑顔を振り撒いた。
「どこにしまったのか、直ぐに判ります」
見せた土鍋は花柄の、それは可愛らしい土鍋だ。
「なるほどぉ」「便利ですね」「だから直ぐバレるんだよねぇ」
案内の説明を見て、何人かが口々に感想を言っては頷いているのだが、琴美だけ『感想の種類』が、若干違うようだ。
家にあったやつは、床面までビッシリ扉があるタイプで、『かくれんぼ』するには丁度良い感じ。
しかしこいつは油断できない。『琴美はどこ?』の一言で、居場所を直ぐにバラしてしまう『裏切り者』なのだ。とても許せん。
「しまう時もこのように。『土鍋』はどこにしまうの?」
今度は擬音はなかったが、ランプが点灯して場所を指し示している。弓原は笑顔でそこに土鍋をしまい込んだ。
あの土鍋は、出したり入れたりされているだけで、実際には稼働していないに違いない。
「このような機器間の通信を行っているのが、『電灯線LAN』になります」
そう言って弓原は、別のパネルを指さした。
電灯線LANは、電源コンセントに通信の信号を流して、機器間通信を行う技術規格である。
「Wifiじゃないんですか?」
「違います。こちら『失敗作』の展示になりますので、言わば『Wifiに負けた規格』とでも言いましょうか」
残念そうに弓原が説明すると、聞いた学生は『あぁ、そうだった』と、納得してくれたようだ。
理由は簡単だ。『だってそんなの聞いたこと無いもん』である。『知ってる?』と互いに指さして、『知らなかった』『お初ぅ』なのだから当然だ。
しかし今度は、琴美だけが『あれ?』という顔をしている。




