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恋路の果てに(五十)

 二週間後、確かに神田カミダイスキーから議事録が届いた。少佐はそれにサインして、添付された別紙を熟読する。

 要約すると以下の通りだ。


①パスポートを保持していること。

②航空機のチケットを予約していること。

③海外渡航ビザを取得していること。

④前項①②③を満たし、空港直行の駅、及びバスターミナルへ出発した場合に、行先を『研究所』直行とする。

 それ以外のとき、出発日から三日以内に次項⑥⑦⑧に該当するホテルに向かう場合に、行先を『研究所』直行とする

⑥空港内ホテル

⑦空港送迎バスがあるホテル

⑧空港から公共交通機関で一時間以内に到達可能なホテル


 少佐は自分で指示したこととは言え、随分曖昧だったなぁと反省する。こうして『紙』にしてみると、随分と粗が見つかるものだ。


「自家用車で向かう場合はダメだし、そもそも『ビザなし渡航』可能な地域だったら、全然引っ掛からないじゃないかっ!」

 少佐は別紙を投げ出した。そして深いため息をつく。対策は後だ。


 どうしても少佐は『ガリソン』の使用を止めさせたかった。せっかく開発した『新兵器』。それと対になる『秘薬』の効果を、ガリソン燃焼後の排気ガスが『無効』にしてしまうからだ。

 これでは『新兵器』が使えず、宝の持ち腐れになってしまう。

 そこで白羽の矢が立ったのが、弓原家である。

 ガリソンが沸き出す硫黄島。一般人は立ち入り禁止だが、軍人だって容易には近付けない。


 硫黄島の海底にあるという海中油田から、横浜までのパイプライン。どこに何があって、どう通って来ているのか。

 その全貌は最高機密であり、非公開。全て謎に包まれている。


 硫黄島の海上及び海中の警備まで厳重で、アリの入り込む隙間もない。いや、アリではなく潜水艦かもしれないが。

 そんな硫黄島周辺の『ガリソン関連施設』を、一手に管理運営しているのが『吉野財閥』なのだ。


 吉野財閥は強大だ。ガリソンで財を成しその財を使って、軍が払い下げた艦船で『自衛隊』を組織している。

 硫黄島では陸軍の予備役、艦船で海軍の予備役を『実戦教育』している。硫黄島駐屯地の『正規軍』と、訓練で『良い勝負』をしているなんて話も聞く。

 どこが『自衛隊』なんだか。もう殆ど『軍隊』じゃないか。


 この国で『財閥』の力は強くなり過ぎた。

 もう既に遅いかもしれないが、やはり何処かで『強権』を発動し、財閥は解体しておくべきだったのだ。

 政治的には、少佐の力でどうにかなるものではない。


 それでも、戦争を勝利で終わらせるため、日本を救うために、何とかしなければならない。


 少佐の決意は固かった。


 それから数カ月後。結婚式を都内のホテルで無事に済ませた徹と朱美は、ホテルのメイン・エレベータホールで、『特別に用意された椅子』に、座っている。

 周りには二人の門出を祝い、写真に収めている人達が沢山居て、そのカメラに向かって、朱美は笑顔で手を振っていた。

 時々徹と揃ってカメラに納まると、見つめ合う。


「新婚旅行、本当にコレで行くの?」


 朱美が下を指さした。昨日からずっと笑顔の徹は、そんな質問をされてもやはり笑顔である。


「もちろんだよ。朱美のリクエストでしょ?」


 それを聞いて、朱美は思い出す。

 確かに『リクエスト』した気がする。それでも徹がそれを覚えていて、まさか実行してくれるとは思っていなかったのだ。


「じゃぁ、そろそろ行くよ?」

「そうね。予約した一時間前には着かないとねっ」


 徹が出発を宣言すると、カメラの砲列が後ろに下がる。

 それを見た二人は、もう一度笑顔で一同に会釈をすると、朱美が手を振りながら扉を閉める。


 二人はエレベータホールから『新婚旅行』に、出発して行った。

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