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恋路の果てに(三十六)

 流石に部隊長の部屋で、マシンガン、いや、分類上は『サブ・マシンガン』の『M9』なのであるが、それを水平に構える訳にはいかない。二人の兵士は、もう銃を降ろしている。


 MP5やP50は『全長五百五十ミリ』と小さいが、それよりも更に小さい『全長三百三十九ミリ』のM9は、最早『大きな拳銃』と見えなくもない。

 しかし、いくら見た目が小さくても殺傷能力は十分だ。きっと、建物内の遭遇戦を想定しての小銃保持であろう。


 その内の一人が朱美の後ろへ、もう一人が『捨て駒』の男の方へ同時に向かう。急ぎ足だ。

 グズグズしていると、部隊長直々の『鉄拳』が飛んで来る。

 いや、鉄拳ならまだ良い。もう少し柔らかい『鉛玉』が、眉間に飛んで来るに違いない。


 先に『捨て駒』の男に辿り着いた兵士が、腰に付けた鍵を引っ張ると、リモコンスイッチの鍵穴に入れた。そしてそれを『クルッ』と回す。

 見えていた赤いランプが、ゆっくりと消灯して行った。


 それを見ていたもう一人の兵士は、腰に付けた鍵を既に手にして待っていた。リモコンを開錠した兵士と、お互いに頷き合って確認すると、朱美の『高電圧手錠』を開錠する。

 どうやらリモコンを開錠しないで『高電圧手錠』を開錠すると、それだけで百万ボルトの電撃が来るようだ。

 誰だこんなの作ったの。

 朱美がそう思ったかは知らないが、実はこれも『NJS製』である。いつものマークは分解しないと拝むことができない。

 古い資料によると、設計は本部長ペンギン部長(当時)、製造を高田課長イーグル(当時)とある。そして、最初の被験者に琴坂主任ホーク(当時)の名を見ることができた。


 噂によると、それから暫く『年末ビンゴ大会の罰ゲーム』として、毎年一人だけ『百万ボルト』を体験できたらしいのだが、残念ながらそちらについては、映像も含め記録に残っていない。


「痛くなかったかい?」

「はい」

 朱美は小さく頷いた。解放された両手を胸の前で交差させるように、左右の手首を交互に擦っている。


「何処に呼んだんだ!」

 また少佐が、朱美の後ろに向かって叫ぶ。大きな声に怖い顔。

「迎賓館入り口です」

「馬鹿者!」

 朱美は少佐の声におののき、肩をビクっとさせながら思う。あのエレベータホールを『迎賓館入り口』だなんて、何の冗談かと。

 きっと少佐が『命名』したに違いない。


「怖かったよねぇ」

 優しい顔に戻った少佐が、優しく朱美に聞く。朱美は思わず目をパチクリさせて、二回頷いた。やはり少佐も『迎賓館入り口』が『怖い思いをする場所』と、理解しているではないか。


「怪我させてないだろうなっ!」

 少佐の声の調子は極端だ。まるで本当に『賓客を出迎えた』ようであるが、その賓客の前で部下を叱るとは。

 反省会は是非『別室』で行って欲しいものだ。


「痛くなかったかい?」

 そう言って、再び朱美を優しい笑顔で見つめる。しかしそれは、まるで『一発ぐらいぶん殴られたかな』と、思っている節もある。

 朱美はおどおどした表情のまま、首を横に振る。すると少佐は、目を見開いて首を傾げ『本当かな?』という表情になった。


「顔に傷なんて、付けてないだろうな!」

 さっきから少佐だけが喋っているように朱美は思っていたが、そうではない。

 実際には後ろの兵士二人と『捨て駒』の男が、小さな声で返事をしたり、ペコペコ頷いたりしているのだが、それを見ることができないだけだ。


「嫁入り前の奇麗な顔に、傷なんて付いたら。なぁ」

 そう言うと少佐は朱美の顔を、まるで診察をするかのように覗き込む。右頬、左頬と目視で確認してから、右手で遠慮なく朱美の顎を持ち、少し上に上げて首元などを真剣な目で確認している。

 そして手を離すと、朱美の目を見てにっこりと笑う。


「はい。口開けて。アーン」

 朱美は歯を食いしばっていた所だった。しかし今度は、それを緩めないといけないらしい。ガクガク言わせながら、少しだけ開ける。

 すると少佐が、笑顔のまま左手で朱美の顎を持ち、グッと力を入れると大きく口を開けさせる。そして、口の中を覗き込んだ。


「良く手入れされた、奇麗な歯だねぇ。うんうん」

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