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恋路の果てに(三十三)

 朱美は後ろから小突かれて歩き出す。

 そこで、もう一人の男とすれ違う。こちらの男も軽装備だ。

 手に持っているのは、プラスティックのトレイのようなもの。例え奪い取っても、武器にも防具にもならないだろう。

 目で追いながら振り返ると、ハーフボックスの中を調べ、先ずは朱美のバックをポンと入れるのが見えた。

 そして、床や天井、座席の裏まで、他に何か隠していないか調べ始めている。


「キョロキョロするなって、言っただろう!」

「は・い・!」

 『捨て駒』の男に恫喝されて、慌てて前を向く。

 今度怪しい動きをしたら、本当に撃たれるかもしれない。だから『捨て駒』の男も必死なのだろう。


「ちょっと待て」

 後ろから銃を構えた男が声を掛けて、朱美も『捨て駒』の男も足を止める。どうやら、銃を構えた男の命令の方が、優先らしい。

 朱美は怖くて、振り返ることができない。その代わり後ろから『コツコツ』と足音が近づいてくる。

 横目に見て見えたのは銃口。その先にあるのは鋭い目だ。まるでこちらが『格闘家』と想定し、行動しているようだ。


「前を見ろ!」

 横目に見るのもダメだった。瞬きもせず直ぐに前を向く。男の方は朱美の様子をジッと観察している。

 いくら『恐怖の表情』をしても、それを信じる様子はない。

 あくまでも、『油断ならない格闘家、兼、プロの殺し屋、兼、毒物を自在に操る者、兼、非情な自白すら強要する者、等々』ありとあらゆる危険性を孕んだ可能性を秘めた者、としての対応だ。

 朱美にとってそれは『迷惑』でしかない。何故なら、朱美に該当するものは、一つしかないからだ。


 銃をこちらに向けたままの男が、視界に辛うじて入る。

「何か隠しているな?」

「いいえ!」

 大きな声で朱美は直ぐに答える。すると男が叫ぶ。

「何か見つかったか!」

「バックだけです!」

 朱美は男に答えようとして息を吸ったが、答えたのはハーフボックスを確認した男。朱美は『そっちか』と、思ったそのときだ。


「前を見ろと、言っただろうがっ!」

 銃を持ち直した男が『本当に撃つ姿勢』を見せる。どうやら朱美は、うっかり横目で声のした方を見てしまったようだ。

 直立不動で正面を向いているのだが、目の反応さえ許して貰えないとは。

 そもそも、話しかける方を向いて欲しい。

 しかし銃を構える男は、きっと後で『小石』が落ちても、朱美を凝視し続けているに違いない。


「一応、研究所に回せ」

「承知しました」

 ハーフボックスを調べていた男は、まず監視カメラに黒いテープを貼った。そして、ハーフボックスのメニューを開くと、『回送』を選択する。

 そして急いでハーフボックスから出ると、扉が閉まるのを待つ。

 自動ドアが閉じると、ハーフボックスは発進して行った。


 銃を構えた男が言った『研究所』が、何処にあるかについて、ハーフボックスを操作した今の男も含め、この場にいる者全員が知らないのだ。


 朱美が『強制連行』されたのは、731部隊本部の『迎賓館入り口』である。ここで『受付』が行われた後、行先が選別され再びハーフボックスに載せられて『研究所』に護送される。

 ハーフボックスの監視カメラが『無人』を検知した場合は、次の乗客を求め、そのまま再び市中に出発して行く。

 それを『回送』にすることで『清掃拠点』へ強制的に向かわせることができる。

 ハーフボックスは『エレベータホール』毎に指定されている『清掃拠点』へ向けて出発して行く。


「良し。歩けっ!」

 朱美は再び歩き出した。後ろ手にした手錠が腰を押し付けている。これだけでも武器になりそうな程重たいが、周りは『ふわふわ加工』がされていて、殴っても痛くはなさそうだ。

 しかし、そんなことをしようものなら、その後ろでリモコンの『電撃スイッチを押しっぱなし』の男が、直ぐにリモコンを手放すだろう。そう。『捨て駒』の男が死んで、リモコンを握れなくなったときも、朱美は百万ボルトの電撃を食らうのだ。


 朱美は迎賓館の割には『しけた』エレベータホールを出て、暗い廊下に入った。両側に鉄の扉が等間隔で並んでいる。


 どの扉からかは不明であるが、朱美の耳に『男の絶叫』が届いた。

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