試験(六)
揺れていた電車が、キュッと止まってドアが開いた。視界から消えた真里の後を追って、琴美も電車を降りる。
改札へ向かう階段の横を、窓から雲を追う人達を乗せた電車が、ゆっくりと通り過ぎていく。
琴美は祈った。
『今日は雨が降りませんように』
「デザートって何が出る?」
真里が振り向いて琴美に聞く。
その笑顔から発せられた問いは、琴美の頭の上を通り越して階段の屋根に当たり、窓から薄暗くなった空に消えた。
大勢の人が作り出す流れに身を任せ、角を曲がって改札機を通り過ぎた。駅の屋根から出る所で二人は空を見上げる。
大丈夫。雨は降りそうにない。
「デザートによっては、琴美の家に行くぅ」
ホッとした感じで真里は言う。
琴美は、少々哀れみの表情を浮かべながら答える。
「残念。今日もデザートはスイカなのだよ」
「スイカかー」
夏のフルーツと言えばスイカである。これは古来から決まっている日本の文化である。
しかし、問題が一つ。植物学的にスイカは果物ではなく、野菜である。
フルーツ、即ち果物とは、木又は弦になる果実を指し、幹は木質化していることが条件だ。
スイカやメロンの様に、単年で枯れる植物は野菜である。
これに対し、東京都中央卸売市場の卸売共同組合は、声明にて次の様な発表をしている。
『八百屋で扱えば野菜。果物屋で扱えば果物と成す』
これでスイカ・メロン・苺・バナナは果物として認知される様になった。
「ナスも?」
真里が首を傾げて琴美に聞く。
「ナスは甘くないでしょー」
何故ナスが出てきたのか判らないが、琴美は苦笑いをして答えた。
「糖度十一度以上ないとダメなんだよ」
スイカで糖度十一度はおいしい方に分類される。しかしその糖度があるのは中心部だ。外側は九度程しかないだろう。
だが、味見をするのは、大抵その中心部分だったりする。
「へー。そうなんだ」
真里が納得して頷いた。琴美は物知りだ。
「嘘だよー」「なんだよー」
そう。糖度での分類分けはない。
ポンと琴美の肩を叩いて、真里は笑いながら角を曲がって行く。琴美も笑いながら手を振ると、真里も手を振った。
二人はお互いの笑顔を見つめ合ったまま、違う方向へ歩いた。そしてお互いの姿が見えなくなると、前を向いて小走りで家に向かう。
角に立つ街灯がスタートを示すかの如く、ポンと光った。