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恋路の果てに(二十二)

 日本情報処理(NJS)株式会社・情報処理部情報処理課所属。『山崎朱美』ハッカー名・ミケ。ここで朱美は只の『庶務』だ。

 本職の『薬剤師』の肩書も、国家資格『ハッカー』の肩書も、ここでは全く通用しない。

 製薬会社から出向の身であるため、社内の機密情報から『徹底的にマークされている』からだ。

 きっと仕事をすれば、少なくとも実力を発揮していないときの、あの課長『琴坂牧夫』ハッカー名・カイトより、仕事はできる筈だ。

 ほら、今日も琴坂課長カイトの背中に『何やら』飛ばされているではないか。気が付かないのだろうか?


 朱美は、新聞の陰から『楽しそうな笑み』を溢す高田部長の所へ歩み寄る。朱美が近付いても、琴坂課長カイトの背中を見つめるばかりで、目すら合わせない。

 朱美は小さく溜息をしてそれを放置。事務的に話しかける。


「部長、ちょっと本部長の所に行ってきます」

「何? 『仲人』でも頼むの?」


 そういう所は鋭いんだよなぁ。半分驚いて、朱美は顔をしかめる。チラっと朱美の顔を見た高田部長は、再び正面を向いたが、朱美の顔に『ピン』と来たのか、朱美の方に向き直った。


「え? 何? 当たった?」

 嫌がっているのが判ったからか、とても嬉しそうだ。

 それだけではない。『本部長の所に行かなくても俺が引き受ける!』と言いたげ。勝手に物語を展開している。

 まるで、もう自分が『仲人を引き受けた』というのが、決定したかのようだ。

 グッと前に乗りだして、目は『式の日取りはいつ?』と、聞いて来ている。気が早いよ!


「違います!」

 思わず朱美は右手を振って否定した。すると高田部長は『なーんだ』という表情になり、再び琴坂課長カイトに向き直った。

 どうやら『仲人の話』でなければ、全く興味がないようだ。それよりも今は『もっと重要な仕事』をしている。そんな風には、全然見えない。

 朱美は琴坂課長カイトの背中を見ると、そこには特徴のある形に並んだ『七つの黒い点』がある。


「最後は、慎重に狙って行かないとねぇ」


 朱美は呆れて言葉もない。それでも一応直属の部長なので、会釈して席を離れる。

 構ってられん。本部長との約束の場所へ急ごう。

 執務室を出るとき、高田部長イーグルが静かに立ち上がり、『ガッツポーズ』をしているのが見えた。

 遠くから朱美が見ているのに気が付いて『ブイサイン』を送っているが、それは無視して執務室を出る。

 本当に、付き合い切れん。『八つ目の星』を凝視するが良い。


 朱美が向かったのは、薄荷乃部屋オペレーションルーム、 そこはハッカー集団『薄荷飴ミントキャンディーズ』のたまり場、もとい。外部からのアタックを防御する為の、特別な部屋だ。防弾防塵防音に優れ、外部からの攻撃からも身を守る。

 朱美ミケは顔認証の後、√2を小数点十桁まで入力して認証を澄ますと、薄荷乃部屋オペレーションルームに入った。

 既に本部長ペンギンが、指揮官席に待機しているではないか。慌てて山崎ミケ本部長ペンギンの席へ向かう。

 その足音に気が付いたのか、本部長ペンギンは顔を上げた。


「あぁ、急がんでも良いよ」

「お待たせしてすいませんでした」

 山崎ミケは指揮官席前で頭を下げる。この部屋に何度も入っているが、ココに来るのは初めてだ。最上段で眺めが良い。


三号機ミントちゃん、ありがとう」

『どういたしまして。また対戦しましょう』

 どうやら本部長ペンギン人工知能三号機ミントちゃんと、チェス対決をしていたようだ。

 画面が消えて本部長ペンギンは顔を上げる。


「何か、急に割り込んだみたいで、済まなかったねぇ」

 本部長ペンギンは勝手に打ち合わせを入れられたのに、まるで自分が山崎ミケの予定に割り込んでしまったと、考えているようだ。記憶は全くないのだが。

「いえいえ。とんでもございません」

 山崎ミケは恐縮して手を横に振る。本部長ペンギンは頭を捻っていて、必死に思い出そうとしているようだ。


「申し訳ないが、俺、何で山崎ミケちゃん、召喚したんだっけ?」

 本部長ペンギンは『いやぁ、ボケちゃったなぁ』とでも言うように頭を掻いた。山崎ミケは笑顔で手を合わせた。


本部長ペンギン、実は、お願いが、ございまして」

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