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恋路の果てに(四)

 朱美と待ち合わせの場所へ向かう。約束したのは大分前だが、忘れる筈はない。ちゃんと覚えている。


 まず一つ目。行先の指定は自分の『スマホを使用しない』こと。通常、呼出するときに『行先を指定』して呼び出す。

 そして乗車時に認証し、扉を閉めたら後は目的地にまっしぐら。これが通常の使用方法だ。

 しかし朱美に指定された使用方法は、それとはちょっと違う。


「えーっと、『行先変更』」


 二つ目。扉を閉める前にコールすると、メニュー画面が表示される。ここで改めて行先を変更するように言われていた。

 徹は初めて使用する機能だが、別に難しいことはない。ちゃんとガイダンス通りに実行すればよい。

 徹の目の前に、CGで作成された奇麗なお姉さんが現れた。名は山本さんと言う。人知れず人気のあるキャラだ。運が良い。

 

『行先を指定して下さい』

 女性の人工音声ガイダンスが流れた。徹は山本さんを初めてお目にしたのだが、もちろん朱美の方が綺麗だと思っている。


「『ラストチャンス』へお願いします」


 そんなリクエストをして、何処へ連れて行かれるのか。徹は知る術がない。

 この『ラストチャンス』は朱美から『プレゼント』されたもので、詳細情報は非表示となっている。


 この世界、と言っても『東京二十三区内』であるが、既に『住所』という概念が消滅してしまっている。

 個人毎に好きな単語と、それに結びつく経度・緯度・高度の情報を登録しておく。それを個人認証した後に、必要に応じて選択するだけだ。個人別に座標になった『住所録』を、持っていると思えば良いだろう。

 そしてその『住所録』は、個人の間で交換が可能だ。


『受け付けました。出発しますので扉を閉めて下さい』


 徹が扉を閉めると、ハーフボックスは静かに動き出す。

 山本さんも『小首を傾げたお辞儀』をすると、笑顔で手を振り、時空の彼方に消えて行く。実はこの『小首を傾げたお辞儀』が人気の理由なのだが、徹はそれを見過ごしていた。


 しかし、それにしてもだ。指定された『行先』は『三回目の場所』として、しっくり来ていると思わざるを得ない。

 徹は一人頷いて、再び夢の世界に落ちて行った。


 その間もハーフボックスは走り続ける。自宅マンションを出発して直ぐに台車に載せられて、向かった先は直近のEXエクスチェンジだ。

 ここで行先の距離に応じて、より大きな台車に詰め替えが行われる。実は電動で動く台車は、充電なんかも行われている。

 他にもタイヤのすり減り具合のチェックとか、消耗品の点検も瞬時に行われているのだが、それを知る人は少ない。

 それもそうだ。誰も台車のことなんて、気にもしていないからだ。


 だから、大きな台車に載せられていることなんて気が付くこともない。再び走り始めた台車は、目的地に一番近いEXに到着すると、そこで、再び載せ替えが行われる。

 徹が居眠りしている間に、一番小さな台車に載せられて最終目的地へ向かう。

 台車が行き交う道を外れ、とあるビルに向かって吸い込まれて行く。そして一階から何故か下へ。そう。上ではなく下へ。


 東京は水害に備えた防災都市だ。海抜百尺の所に『人工地盤』があり、その下は『アンダーグラウンド』である。

 徹は、海抜ゼロメートルにある地面から『人工地盤』を突き抜けて空にそびえる、でっかいビルに入ったのだ。

 そして下に向かっているということは、つまりそこは『アンダーグラウンド』なのである。


『目的地に到着しました』


 今度は山本さんとは別の奇麗なお姉さん、今度は高橋さんだ。彼女は電撃を使うこともなく、徹をそっと起こす。

 徹が目を覚まし、急いで扉を開けると高橋さんは普通にお辞儀をして普通に手を振り、やはり時空の彼方に行ってしまった。


 高橋さんも結構人気のあるキャラなのだが、朱美に夢中の徹は、もちろん眼中にない。そのままハーフボックスを出た。


「ここは何処だ?」


 顔をしかめていると、突然タバコ屋の前にある『赤電話』が鳴り響く。その衝撃で徹は『何個目かの約束』を思い出していた。

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