試験(四)
「でもさー、願書出すのに要るじゃん」
「そうなんだよねー」
人差し指を振りながら亜紀が言うと、真里が困って頭を掻く。
どうやら、大学の願書を出すのに必要な資格の様だ。琴美は『心のメモ用紙』に書き込みながら頷いた。
「真里はどこまで受けるの?」「私は四級までで良いや」
ダブルバニラにスプーンを突き立てて、真里が指を四本突き出す。
「じゃぁ私も、四級までで良いや」
亜紀が真里の意見を聞いて、安心した様に言った。
「テンプーはあんま使わないしね」「そーだよねぇ」
真里と亜紀の二人で会話が進む。
何のことだか判らない琴美は寂しかった。しかし、今はそれどころではないのだ。
琴美の頭に浮かんだメモ帳には、四級というものと『テンプー』なる未知の単語が追加された。
「東京行くには三級必須っしょ?」
「写真と論文出すからねー」
亜紀から琴美への質問に、真里が答えている。
その間に琴美は、亜紀の顔を見て状況を整理した。そして、頭の片隅にある変換キーを何度も押して、『テンプー』が『添付』であることに気が着くと、直ぐに答える。
「そーなんだよね」
「テンプーするだけで三級とか、めんどくね?」
「いえるー 別にいいじゃんねー 何の問題があるんだろう」
真里の愚痴に亜紀が答えた。
やはり予想通り『テンプー』は『添付』で間違いない様だ。
「色々問題があるのよ」
琴美がコーヒーカップを置きながら言った。
「そうなんだー」「どんな?」
真里の感想と亜紀の質問は同時だった。良くあることだが、そういう場合笑って誤魔化すか、質問に答えるのが儀礼というものだ。
「ウイルスとか?」「あー、それ聞いたことある」
真里はそう言って顔をしかめた。まるで汚いものを見るかの様に、おでこにシワを寄せる。
「怖いよねー」
亜紀も顔をしかめて真里の方を見た。
琴美はほっとしていた。後は家に帰って調べれば良い。
空になった皿と、だいぶ底の見えたコーヒーカップを見てそう思った。しかし、いつもだとこの三人の会話はまだ終わらない。
窓が『鏡』の様に自分たちが映るのを見て、それから時計を見て席を立つのだ。
「夕立来そうだね」
「ちょっとやばいかも?」
そう言って真里と亜紀が席を立つ。
琴美は二人がトイレにでも行くのかと思って上目遣いに見たが、その表情を見ると、血相を変えて自分も立ち上がった。




