表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/1520

試験(四)

「でもさー、願書出すのに要るじゃん」

「そうなんだよねー」

 人差し指を振りながら亜紀が言うと、真里が困って頭を掻く。

 どうやら、大学の願書を出すのに必要な資格の様だ。琴美は『心のメモ用紙』に書き込みながら頷いた。


「真里はどこまで受けるの?」「私は四級までで良いや」

 ダブルバニラにスプーンを突き立てて、真里が指を四本突き出す。


「じゃぁ私も、四級までで良いや」

 亜紀が真里の意見を聞いて、安心した様に言った。


「テンプーはあんま使わないしね」「そーだよねぇ」

 真里と亜紀の二人で会話が進む。

 何のことだか判らない琴美は寂しかった。しかし、今はそれどころではないのだ。

 琴美の頭に浮かんだメモ帳には、四級というものと『テンプー』なる未知の単語が追加された。


「東京行くには三級必須っしょ?」

「写真と論文出すからねー」

 亜紀から琴美への質問に、真里が答えている。

 その間に琴美は、亜紀の顔を見て状況を整理した。そして、頭の片隅にある変換キーを何度も押して、『テンプー』が『添付』であることに気が着くと、直ぐに答える。


「そーなんだよね」

「テンプーするだけで三級とか、めんどくね?」

「いえるー 別にいいじゃんねー 何の問題があるんだろう」

 真里の愚痴に亜紀が答えた。

 やはり予想通り『テンプー』は『添付』で間違いない様だ。


「色々問題があるのよ」

 琴美がコーヒーカップを置きながら言った。

「そうなんだー」「どんな?」

 真里の感想と亜紀の質問は同時だった。良くあることだが、そういう場合笑って誤魔化すか、質問に答えるのが儀礼というものだ。


「ウイルスとか?」「あー、それ聞いたことある」

 真里はそう言って顔をしかめた。まるで汚いものを見るかの様に、おでこにシワを寄せる。

「怖いよねー」

 亜紀も顔をしかめて真里の方を見た。


 琴美はほっとしていた。後は家に帰って調べれば良い。

 空になった皿と、だいぶ底の見えたコーヒーカップを見てそう思った。しかし、いつもだとこの三人の会話はまだ終わらない。

 窓が『鏡』の様に自分たちが映るのを見て、それから時計を見て席を立つのだ。


「夕立来そうだね」

「ちょっとやばいかも?」

 そう言って真里と亜紀が席を立つ。


 琴美は二人がトイレにでも行くのかと思って上目遣いに見たが、その表情を見ると、血相を変えて自分も立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ