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高速貨物列車の旅(二十八)

「あちらの列車、後ろ半分は常磐線経由で東京に行くんです」

 早速、佐々木車掌の説明が始まった。

 ここは『宮城野』を出発した所だ。もうすぐ仙台方面からの鉄路と合流するだろう。


 何? 『仙台貨物ターミナル』だと?

 まぁ、そう呼ぶ人もいるかもしれないが、『宮城野』は『宮城野』であって、『宮城野原』ではない。


「どうしてですか? 犯人を逃がす為ですか?」

 井学大尉の問い。佐々木車掌は『変な質問だなぁ』と思っているのだろう。顔を見れば判る。


「違います。これから山岳区間なので、後ろ半分を切り離すんです」

 言われた井学大尉は、疑り深く窓の外を見る。

 山なんて、何処にも無いではないか。いや、夜だから見えないだけかもしれないが。

 再び佐々木車掌の方を見て、疑いの眼で凝視する。


 佐々木車掌は『進むのはそっちじゃないだろう?』と突っ込みながら、溜息をつく。


「補機を連結すれば?」

 石井少佐は判っているようだ。もしかして、この先の白石で『補機を増結する風景』でも、見たことがあるのだろう。

 しかし、佐々木車掌は首を横に振る。


「このEF800のパワーを持ってすれば、補機は要らないんです」


 そう言いながら、ちょっと誇らしげに胸を張る。

 石井少佐は、少し残念そうに頷いた。やはり白石での連結シーンでも、見たかったに違いない。


「常磐線の方なら、補機要るのかね?」

 なんだったら、今からでも乗り換えたそうに石井少佐が聞くではないか。佐々木車掌は笑った。


「あちらは海沿いなので。割と平坦でしてね。

 だから補機は、元々要らないんです」

 両手を上に挙げて説明している。

 どうやらこちらの列車には『ハンデ』があるようだ。


「そうですか。平坦だと、スピードも出るのかね?」

 石井少佐が手をビュンと横にスライドさせて表現しているが、それは飛行機の説明にした方が良さそうである。


「はい。向こうの方が速度は上ですね」

 石井少佐の顔が歪む。それを見た井学大尉の顔も歪んだ。


「常磐線の方に行ったのと、どっちが先に東京に着くのかね?」

 その歪んだ顔のまま、石井少佐は尋ねる。すると、佐々木車掌の顔がパッと明るくなった。


「それは、こちらです」

 佐々木車掌は、足元を指さした。自信満々の顔である。

 しかしそんなの、今までの説明と矛盾するではないか。だから井学大尉が噛みついた。


「どうして判るんですか!」


 本当に噛まれそうな勢いで言われた。一歩歩み寄って来たのも、それを思わせる。

 だから言われた佐々木車掌は、大いに目を丸くした。


 そんなの『ダイヤで決められているから』に、決まっているだろうが! 当たり前ではないか!

 それには流石の石井少佐も、井学大尉を窘めるしかない。『落ち着き給え』とでも言うように、肩をポンポンと叩く。


「向こうの列車は、大洗からの鮮魚を連結してから来るんですよ」


 それを聞いた井学大尉は、嘘を言っていないと確信する。

 しかし、貨物列車にもダイヤがあって、決められた通りに走っている認識というものは、どうやら無いようだ。


「それにこの後は、東京までノンストップです」


 再び足元を指して、佐々木車掌が言う。

 つまり東北線のこちらは『特急』、常磐線の向こうは『各港停車』と言うことか。

 確かに山間の鉄路で『港町』を探すことは難しい。それならと思ったのか、井学大尉は納得して頷いた。

 そこへ石井少佐が尋ねる。


「黒磯で止まるのではないのかね?」


 その問いに、佐々木車掌は言葉を詰まらせる。

 すると石井少佐の方が、まるで『勝利を確信』したような笑顔になっているではないか。


 井学大尉は再び顔を険しくて、佐々木車掌を睨み付ける。

 やはりコイツは『何か』を隠しているようだ。

 るしかない。


「ちょっとだけですよ?」


 佐々木車掌が笑う横で、石井少佐は井学大尉の足を踏んでいた。

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