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高速貨物列車の旅(十一)

 井学大尉はパイロットである。だから目が良い。

 その目で現実を直視していても、それで真実が見えているとは限らないのが世の中だ。


 人が空を飛ぶとき。それは危険と紙一重である。

 如何にそれが、現代の英知を集めた結晶であったとしても、それを扱うのが人である限り、一つのミスで全てが水泡に帰す。


 だからこそ、真のパイロットに求められるもの、それは『学力』ではなく、遠くを見る『視力』であり、状態を見る『観察力』であり、変化を感じ取る『注意力』なのだ。


 もちろん、機体との『意思疎通力』も必要だ。


 車掌の様子が、何だかさっきと違う。おかしいのが判る。

 おどおどした様子もなく、堂々としていて、はっきりとした意思を感じる。


 少佐をどこかに連れ出し、隙を突いて一発かまそうとしている? かも知れない。

 いや、さっきまでジッと車掌を観察していた、少佐のことだ。

 そんな隙は見せないだろう。


「足元に、ご注意下さい」


 見ろ。軍人に対して『足元を注意せよ』だと?

 少佐は陸軍。足元に一番注意しているお人であるぞ?


 北海道の激戦地で、地雷原を掘り起こした土の色で見分けて突破し、草原の罠を葉の傾き具合で見分けて避け、森林行軍は、植生でカモフラージュを見破ったお人であるぞ?


 只の梯子、ホームに降りるその場所に、地雷が? コンクリートなのに、地雷を設置するなど、愚の骨頂。丸見えではないか。


 ほら。やっぱり少佐も、判ってらっしゃる。

 怪しいと睨んだのか、ピッタリと車掌の足跡を追っている。


「積み替えもするのかね?」

「はい。今日は湊駅からのは荷物が少なかったので、纏めています」


 流石少佐。積み荷までチェックしているとは。

 ここは私が上に上がって、屋根を点検しなければならないな。


「少佐、上を確認して来ましょう」

「不要だ」

「はっ」


 おみそれしました。既に確認済だったとは!

 いつの間に。

 パイロットであるこの私より、更に上を行くとは。

 流石、我が町の英雄の子にして、我が町の誇り。

 石井少佐ここにあり! だな。


「こちらです」

「先に、確認しますか?」

「不要だ」

「はっ」


 恐ろしい。ココも、既に確認済だったとは!

 本当にいつの間に、だ! 千里眼の噂は本当だった。

 まるで、見えていないものまで見えている。

 何人もその観察眼からは、逃れられないのだ。


 今に化けの皮が、剥がされるであろう。この、偽車掌め!


「こちら、ご自由にお使い下さい」

「ありがとう。大尉、机の方を使いたまえ」

「はっ」


 何だ? この匂い。まるで油と醤油が混ざった、それでいて食欲を誘う、懐かしい感じの。


 毒薬にしては美味しそう。これでは簡単に致死量を超えて来る。


 少佐、これは危険な香りですぞ? 何かのトラップ。

 入り口付近に立つ車掌、いや、絶対偽の車掌。パッと扉を閉めて、この毒ガスを充満させ、命を奪う作戦であろう。


 フフリ。その作戦はお見通しだ。上手く化けたつもりかもしれないが、偽車掌め、貴様はミスをした。


 胸のネームプレート、確かに貴様は『佐々木』と名乗った。しかしさっきの『佐々木』とは違う。私の目は誤魔化せない。


 笑わせる。『佐々木(達)』と『佐々木(義)』。

 カッコの中を間違えているではないか。

 そんなの『スパイの新人』だって間違えん。


「お茶を買う時間はあるかね?」

「はい。お急ぎ下さい。ご案内します」

「お供します」


 さっすが、我らが少佐! すっごい! 尊敬しちゃう!

 判ってらっしゃるんですね。

 既に偽車掌の毒ガス作戦など、お見通しだったのですね。

 いやぁホント、流石です。


 判ってます。

 次はお茶を買うと見せかけて、ズドン! ですね!


 井学大尉はパイロットである。だから目は良い。

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