高速貨物列車の旅(一)
競りも終わって一段落した八戸市第一魚市場前に、人が集まって来ていた。
遠くに見えていた小型機。何やら変わった形の飛行機が、随分低空を飛んで来たと思ったら、海上に墜落、いや、着水したのだ。
そのまま『まるで船のよう』に海上を滑りながら、それでも動力はプロペラで、風を切って進みつつ、ゆっくりと近づいてくる。
これでは暇そうにしていた人も、集まってくると言うものだ。
「すげぇ、晴嵐だ!」
そんな声が聞こえた。集まった中に『戦闘機マニア』でも、いたのだろうか。
今時珍しいプロペラの軍用機。しかも『海上を滑って来る飛行機』など、そう滅多に見れるものではない。
「これ、マッハ出るの?」
「出る訳ないだろっ!」
今度は一般人の会話が聞こえてきた。フロート付きの飛行機でマッハが出たら、それはもう『売れる』に違いない。
やがてその晴嵐は、一番近い防波堤までやって来たのだが、接岸できないと感じたのか、くるりと向きを変える。
防波堤外の『船を引き上げる設備』のある海岸へ向かった。海岸が『斜め』になっているのが、都合良かったのだろう。
ぞろぞろと、そちらへ向かって歩き始める大人達と、珍しがって走り出す子供達。
しかし意外にも、晴嵐の方が速いようだ。
最後はシュっと横にスライドさせ、器用に着岸させてみせた。直ぐにキャノピーが開いて、中から人が出て来る。
「将校だ!」
今度は『軍服マニア』でも、いたのだろうか。
前後で何か話をしている。それは、きっと別れの挨拶だろう。
握手なんかもしていたが、まるで急いでるかのように、後席の将校がパッと降りた。
海水で濡れないように、ピョンと跳ねると上陸し、振り返る。
今度はパッと手をあげた。
それを見て晴嵐は、エンジンの出力を上げる。激しく水しぶきを上げながら、再び海上を滑るように進んで行く。
やがて、宙に浮いた。
いやいや、飛行機だから。空を飛ぶのは当たり前。
しかし晴嵐は、海上スレスレを飛びながら水平線の彼方へ飛んで行き、豆粒のように小さくなって見えなくなった。
そんな海辺に、先に集まったのは子供達だ。しかし将校は『偉い人』というのは、皆知っている。
親から『末は博士か将校か』なんて言われて、育ったとか、育っていないとか。
だから、遠巻きに眺めるだけである。
しかし、深く被った帽子の奥に光る眼は、およそ軍人らしからぬ『優しい目』だ。トコトコと子供達の所へ来ると話し掛ける。
「ねぇ、鮫駅は、どこ?」
笑顔で聞かれたのは、一番大きい子である。
「あっち」
そう言って、右手を伸ばす。その方向を見て将校は頷いた。
「ありがとう」
礼を言うのと同時に、急いでいるのか走り出す。それでも振り返りながら、帽子に手を添えて一礼した。
小さな子供達は将校の方ではなく、晴嵐の方を見ている。
一番大きな子だけが、それに返礼して敬礼する。すると将校は立ち止まり、きちんと敬礼してから再び走り出した。




