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深海のスナイパー(四十三)

 艦首にある魚雷発射管室では、水雷士全員が大人しく待機中だ。

 潜水艦の乗組員であれば、魚雷を食らったらどうなるかは良く理解している。


 目の前にあるこんな『でかい物』が、今、自艦に突き刺さったかもしれない。水雷士達が聞いた爆発音は、今までの戦闘経験から言っても『最大出力』のものだった。


 それに、誰もが『沈む』と、そう思うのに十分な程揺れたし、左右が水平になったのもついさっきだ。


「こっちは無事だったようだね。怪我人はいるかい?」

「艦長! 全員無事であります。まだやれます!」


 一斉に敬礼をして出迎える。目が死んでいない。

 それはそうだろう。何故なら、戦闘中に艦長がココへ来ることは滅多にない。

 だから、何事かと思う反面、海水の代わりに来たのが艦長だったのでホッとしていた。

 いずれにしても艦長の訪問は、至極喜ばしいことに違いない。


「プラグゼロは、あと幾つあるかね?」

 そんな艦長からの質問は、意外なものだった。そんな質問は発令所からでも聞けたのに。

 マイクが故障したのだろうか?


「あと、三発であります」

 水雷長から直ぐに返事があった。艦長は頷く。


「じゃぁ、こいつを詰めてくれ」

 手に持っていたジュラルミンケースを前に突き出す。

 なるほど。そういうことですかと、水雷長は直ぐに理解して頷く。

 そんな水雷長を見た水雷士達が、一斉に動き始める。


 俺達はまだやれる! 仕事がある! 艦長からの命令だ!


 彼らの背中がそう語っている。水雷長だけが艦長から荷物を受け取って、平らな場所を探しているが、それはない。

 上下を確認して水平に持ち、艦長に聞く。


「これは、何でしょうか?」

「開ければ、判るよ」

 艦長はにっこり笑った。言われた水雷長は、目の前に用意された『プラグゼロ』の上に、そのジュラルミンケースを置く。

 そして、パチンパチンと左右の留め具を外し、蓋を開ける。


「ヒューッ」


 水雷士の誰かが、一目見て何だか判ったのだろう。口笛を吹く。思わず全員が笑顔になった。

 いや、口笛を吹いた水雷士は、先輩に頭を『コツン』とやられて苦笑いだ。


「これを、プラグゼロに、ですか?」

「そうだ」

「全部ですか?」

「そうだ。全部だ」

 すると突然、水雷士達の表情が、一斉に『笑顔』から何とも言い難い『渋い表情』に、変わったではないか。


「プレミアムボックスも、ですか?」


 一番渋い顔をした水雷長が手にしたものは、他とは様相が違う。

「そうだ。全部と言ったら、全部だ。二言はない!」

 強い決意を感じるが、艦長は笑っていた。


「全部開封して、バラシて入れるんだ!」


 艦長のでかい声。それを聞いて、水雷士達の目の色が変わる。

「イエーイ!」「イエーイ!」「イエーイ!」

「イエーイ!」「イエーイ!」「イエーイ!」


 艦長の指示が飛ぶと、水雷士達が雄たけびを挙げる。そして、一斉に動き始めた。


 箱は全部で八個。プレミアムボックスは水雷長が手にしているので、残りは七個。


 箱を包装している薄いセロファンを剥がすと、蓋を開ける。

 中から出て来るのは、奇麗に重ねられた物。それを、艦長の命令通り、一枚一枚が、キッチリ、完璧に、バラバラになるように、プラグゼロに入れて行く。


「チャフにするんだからなっ! キッチリバラシて行け!」

「アイアイサー!」「アイアイサー!」「アイアイサー!」

「アイアイサー!」「アイアイサー!」「アイアイサー!」


 あっという間に、艦長命令は達成された。最後に投入されたのは、水雷長のプレミアムボックスだ。


 それは『カルピスのメロン味』と同じくらい、貴重なものだった。

 しかし、流石プレミアムボックス。凄いの一言。

 水雷士達は頷きながら、それを見守る。


 艦長が持って来たのは『ダイナマイトセット』だ。これは、取り扱い注意の品であり、持ち込みには艦長の許可が絶対必要だ。


 何故、艦長の許可が絶対必要なのか。その場に居合わせた全員が理解する。たしかにこれは『ダイナマイト!』に違いない。


 一応それは、本来『BINGOの景品』に、なる筈のものだったと補足しておこう。


 艦長と水雷士は、願いを込めてプラグゼロの蓋を閉じる。


 中には、既に『製造中止』となっている、幻の一品もあったのだ。

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