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深海のスナイパー(四十二)

 艦長と副長は、『封印されし開かずの扉』の前に立ち、そこにある鍵穴に、互いの鍵を差し込んだ。

 ちょっと説明を加える必要がある。


 棚の幅は五十センチ程。それに対して高さは二十センチ程と、割と横長の棚である。

 しかし鍵穴は二メートル以上離れていて、一人では開けられない。しかも鍵を、弐ヶ所同時に逆方向へ回さなければならない。という、念の入りようだ。


 艦長が艦首側、副長が艦尾側に立っている。そして深呼吸した。二人は頷く。艦長が大きく息を吸って、叫ぶ。


「壱、弐、参!」

『ガチャッ』


 艦長の、少し速い掛け声に合わせて解錠された。指令所に、鍵が開く音が響く。副長の表情は、まるで解錠に反対しているような、微妙な表情だ。


 それに比べ艦長の表情は、自信に満ちている。

 まったく。この期に及んで、この二人の性格を正確に映し出している。いつもそうだ。


 長年、艦長と副長のペアを共に潜水艦で見てきた乗組員は、艦長の判断に、何の疑問も持ったことがない。

 某国との合同訓練で輪形陣を破り、中央で航行する原子力空母の横で浮上したときだってそうだったし、原子力潜水艦に、当たり判定を出したのだって良い思い出だ。


 いつも的確な指示で、『ザ・艦長』であった。


 それに比べ副長は、艦長が唯一認める優秀な乗組員には違いないが、いつも『ミスター副長』であったのだ。

 副長の言う通りにしていたら、多分、二、三回は死んでいる。


 自分の担当計器が復旧していない係員は、そんな二人の様子をじっと見つめていた。

 不思議な棚があることを誰もが知っていたのだが、誰もそこから何が出て来るのか、知らないのだ。


 艦長が扉を開ける。そして、手を伸ばす。

 中から『ガタン』と音がして、引っ張り出されて来た物。それは、銀色のアタッシュケースだった。


 何だろう。海軍仕様という訳ではなく、何だか『普通』の、アタッシュケースのようにも見える。


「艦長、それは、どこで?」


 副長は、恐る恐る艦長に聞く。しかし艦長は、その質問に答えるつもりは無いようだ。黙って指令所を出て行く。

 いや、一言だけ副長に命令をした。


「少し、ここを頼む」

「はっ!」

 副長が敬礼して答えた。


 やはり艦長が頼りにしているのは、副長だけのようだ。


 一時でも任された副長は、責任の重さを感じていたのか、それとも、もっと重要なことを予見していたのか、顔を強張らせていた。


 艦長が向かった先。それが『魚雷発射管室』だったからだ。

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