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深海のスナイパー(三十九)

 磯風が放った魚雷が、イー407に接近していた。

 何も制御なしの、ただ真っ直ぐに進むだけの魚雷である。だから、途中の蒼鯨に反応することもなく、魚雷の爆発による海水の乱れにも動じない。


「チャフ放出!」

「チャフ放出了解!」


 だから艦長の上条中佐が、最後の手段として放出したチャフにも反応することなく、ただひたすらに、イー407に向かっている。


 発射した有線魚雷をコントロールして、突っ込んでくる魚雷に向けるにも、最小回転半径というものがあるのだ。

 そう簡単に、曲がってくれる訳ではない。


「魚雷来ます。距離三百、二百」


 ソーナー係がカウントダウンしながら、振り返る。艦長は手に、マイクを持っていた。目は死んでいない。

 まだやる気だ。諦めた訳ではない。ソーナー係はそう思った。


「総員、対ショック態勢!」


 違った。それは魚雷が命中することを、意味している。


 何処に当たるか知らないが、艦を突き抜けた魚雷が爆発し、水圧に耐えていた艦の、バランスが崩れる。

 そして、穴の開いた所から艦が潰れて行き、海水が入って来るのだ。水密扉は閉まっているが、艦が潰れてしまっては意味が無い。

 あらゆる隙間から、海水が流れ込む。

 そして電気が消えて、暗闇が訪れ、水圧が外と等しくなると、ゆっくりと海底に沈んでいくのだ。


 イー407に『ドゴーン』という音と共に、衝撃が走った。艦全体が左に傾き、照明がチラつく。


 対ショック態勢を取っていたので、指令所で取り乱す者はいない。しかしそれも、時間の問題だろう。

 艦長は再びマイクを手に持つ。


「被害の状況を報告せよ」


 その報告が来るのかは定かでない。代わりに、海水がやってくることも覚悟している。

 しかし艦長は、違和感も感じていた。初めて魚雷を食らったのであるが、その割には『こんなもんか』という、思いもあった。

 いや、その思いは捨てよう。


 もしかして、魚雷が艦尾に当たって、スクリューが壊れてしまったかもしれない。

 もしかして、艦が長いから、潰れて来るまで、暫く時間が掛っているだけかもしれない。


 もしかして、もしかして、バッテリーが浸水しているかもしれない。もしそうなったら、大変だ。

 毒ガスが発生して、死んでしまうかもしれない。


『右機械室、浸水!』


 第一報が入った。やはり、ダメージがあるようだ。

「進路そのまま、微速」


『右燃料タンクより、燃料漏れあり!』


 第二報は、深刻だった。

 燃料が漏れると言うことは、代わりに『海水が入って来る』と、言うことだ。


 いやいや、そこで『ふーん』と、思ってはいけない。

 比重を考えるのだ。燃料と海水では、海水の方が重たい。つまり当艦は『どんどん沈んで行ってしまう』と、言うことなのだ。


「進路そのまま、微速了解」

 それでも操舵手が応答し、艦をコントロールし始めた。


「艦の制御は、可能か?」

 艦長が問う。しかし答えはない。艦はまだ左に傾いているが、これが段々と真っすぐになれば、まだ行ける。はずだ。


「はい。動きます!」


 ゆっくりと艦の姿勢が変わり始める。

 艦長は胸を撫で下ろした。


 浸水はしているが、『操舵』はまだ、出来る『そうだ』。

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