ガリソン(十九)
インターネットに掲載されている内容が、全て正しい訳ではないこと。そんなの、あの真里だって知っている。
それでもこれは、歴史が苦手な真里にとって、騙せそうな『ネタ』に思えた。
琴美は薄ら笑いを浮かべて、電子会議室に表示されたままになっている真里の名前をクリックしようとする。
しかし、不意に手が止まる。目の前にあるDVDに目が行く。
その、山積みになったDVDの一番上は、徳川慶喜だ。さっき読んだ『ガリソン』の記事と、丁度同じ年代ではないか。
琴美はそれを取上げると、ディスクをパソコンに突っ込んだ。
オレンジ色のランプが二、三回点灯し、パソコンにDVDの画像が流れ始めた。画面奥から人物の写真が次々と現れ、手前で大写しになる。そして左右に消えていく。
それは聖徳太子から始まって、小野小町、菅原道真、源頼朝、足利尊氏、織田信長、徳川家康というように、教科書にも載っている写真が歴史の古い順に表示されていた。
しかし、徳川慶喜、ペリー提督からは、知らない顔が次々と現れた。琴美はそれを見て、嫌な予感を覚える。
「歴史が、変わっている」
そう呟いて自分に言い聞かせてみたが、映像はさも当然という形で何も変わらない。
本編が始まったDVDは淡々と、琴美の知らない事実を伝えるだけだった。まるで小説でも読んでいるかのような話。
ペリー提督が硫黄島沖でガリソンを発見し、江戸幕府はアメリカと通商条約を結ぶことで、油田の開発に成功する。
そしてアメリカの庇護の下、ヨーロッパやロシアを初めとした列強各国に対し、優位な立場でガリソンを販売することが出来た。
これにより、江戸幕府は継続的に外貨収入を得ることができるようになった上、国内でもこのガリソン利用を推し進めるため、鉄鋼船の建造を始める。木造船ではガリソンの運搬には適さない。
そして江戸幕府は、その造船技術を生かして軍艦を建造し始める。丁度薩摩・長州の連合軍が幕府に対し、反旗を翻していたからだ。
将軍徳川慶喜はこの動きを察知し、鳥羽伏見に軍を進め、大坂には最新鋭の軍艦を配備した。
薩摩・長州の連合軍は朝廷の説得に成功し、天皇の御旗を掲げて進軍。鳥羽伏見で幕府軍と対峙する。
しかし、幕府軍は戦闘をせずに撤退。一部は武装解除して薩摩・長州の連合軍に降伏した。
大坂にいた徳川慶喜は、僅かな手勢を引き連れて京都の御所に入り、兼ねてより提出していた新政府構想の受け入れを請う。
それは、幕府と朝廷を解体し、国民の選挙によって選ばれた国会議員によって運営される案だった。
天皇は戦争を避け、国民の幸せを願う徳川慶喜の意見を直に聞き、薩摩・長州軍に徳川討伐勅命の取り消しを伝達する。
そして徳川慶喜は、天皇を国民の象徴とした新たな国造りを始めるのだ。