ガリソン(十八)
インターネットの検索サイトを開くと、そこには信じられないニュースがあった。琴美はそれを急いでクリックする。
『気象省痛恨のミス。梅雨入り日を間違えて、全国で死者千五百名。重傷者三万人以上』
「そんなぁ」
呟いてから、琴美は記事を読み進めた。そこには恐ろしいことが、淡々と記されている。
気象省は七年振りに梅雨入り日を外したこと。それに加え降雨時間も外し、被害が拡大したことが書いてあった。
雨に当った人は、皮膚が火傷の様なケロイド状になり、もだえ苦しんで死んだ。
家に帰れず、駅に取り残された人は関東地方だけで二百三十万人。レインコートは、たちまち売り切れたと言う。
急いで琴美はテレビを点ける。そして直ぐに消した。
そこには、見るも恐ろしい映像が映し出されたからだ。中学の修学旅行で、広島の原爆資料館に行ったことがある。そこで見た展示とそっくりの状況だった。
顔も手も真っ黒に焼け爛れ、助けを求めてうごめく姿は、哀れみを通り越して恐ろしい程だ。
原爆と違うのは、洋服や鞄はそのままで、焼け焦げたりはしていない。人間だけが雨に当ると死んでしまうようだ。
琴美は検索サイトで、過去のニュースをサーチした。すると、出てくるのは雨のニュースばかり。
何れも『天気予測』が外れて、沢山の被害者が出たというものだ。掲載された写真は、どれも目を逸らしたくなるものばかり。
ふと琴美は『ガリソン』という単語を思い出した。
それは、写真に写ったガソリンスタンドに『ガリソン』と書かれていたからだ。
「何かしら?」
それを知るために必要な時間は一分も掛からない。
琴美は検索サイトに『ガリソン』と入力して実行ボタンを押す。
すると検索結果が山のように出てきて、それがあたかも『ガソリン』のように『極一般的な単語』であることが判った。
ガリソンとは、一八五四年江戸を訪れたアメリカのペリー提督が小笠原を探検した際、硫黄島沖で偶然発見した油分を含む鉱石より精製された燃料。
中東で主に産出される石油から精製したガソリンとその分子構造が酷似しているが、中央部分の配列が丁度入れ替わった様になっている為、ガリソンと命名される。
一八五八年日米修好通商条約締結の際、アメリカに対してのみ採掘権が与えられる等、不平等な条約の元管理されていた。
その後、アメリカの南北戦争後にアメリカ国内で、油田が多く発見されたことから、一八六八年の明治政府樹立後の日米安保条約締結後に日本に採掘権が返還された。
国家機密の為、埋蔵量、詳しい場所は明らかにされておらず、現在硫黄島近辺は一般人立ち入り禁止となっている。
琴美はポカンと口を開けたまま、固まっていた。ナニコレだ。