ガリソン(十七)
「それよりさ、日本史どうする?」
「日本史かー」
真里は日本史も苦手だ。日本史は琴美の方が点数が良い。
ふと机の隅を見ると、日本の歴史シリーズDVDが転がっている。
「お父さんがさ」「うんうん」
「日本の歴史って言うDVD、全巻借りて来たんだよねぇ」
最初の巻を取上げて言った。大和朝廷の絵が描かれている。
「まじで? やさしくね?」「そうかなー」
「家のお父さんは、そんなの絶対借りてこないし」
「いや、普通借りてこないよぉ」
琴美は笑いながら言い、手に持ったDVDを元の山に戻した。
「それで勉強したらさ、ノート見せてよ」
「いいよぉ」
ずうずうしいことを真里が言うので、琴美は笑って答えた。
しかし、直ぐにもっと良い方法を思い付いた。
「DVD貸してあげるから見れば?」
「えー、良いよ。もう直ぐ雨降るし」
琴美の顔から笑顔が消えた。いつもの真理と違う。
真里の家まで、自転車でたったの五分だ。昔、長電話をしていて、『直接行け』と父に怒られたこともある。
「今日さ、映画観に行くって言ったらさぁ」
「まぁじでぇ?」
真理の声が高い。凄く驚いているようだ。
「うん。凄い怒られた」
そう言うと、スピーカーから真里の大笑いする声が聞こえてきた。そうだ。映画に行く位で、そんなに怒ることもないのだ。
「琴美さん、それは如何なものでしょう」
暫く笑った後、収まらぬ笑いを堪えながら、真里がデカンタ刑事の口真似で答えた。
「だよねー」
相槌を打つ。しかし直ぐに、意外なことを真里が言って来た。
「琴美、折角助かったのに、雨で死ぬことはないんじゃない?」
琴美は固まった。雨で死ぬ? どういうこと?
昨日の父と母の行動や言動を思い出す。最初は母がタクシーに早く乗れと言う顔だ。いや、その前にも看護士が窓を必死に。
バケツで水を掛けたのも、そういうことなの? 毒消し?
「琴美? 琴美?」
真里の呼び掛けを聞いて、琴美は我に返った。
「ごめん。ちょっと頼まれていた調べ物をしないといけないんだ」
「回線切れたかと思った。OK。それじゃまた後でねぇ」
「うん。またねー」
琴美は電子会議室を出た。
ふと外を見ると雨が降り出している。
この雨に当ると死ぬのだろうか。本当に死ぬのだろうか?
試してみたいが、本当に死んだら困る。
琴美は恐ろしくなって、窓のカーテンを引いた。




