ガリソン(十六)
琴美はパソコンのスイッチを入れた。DVDを見る気分じゃない。
もし真里がパソコンを使っていれば、携帯電話を使うより安く話が出来る。昨日と今日の状況を詳しく聞きたかった。
あと『梅雨休み』のことも。
パソコンが起動すると、いつもの画面が表示された。
そして電子会議室を開くと、そこに真里のIDが表示されている。琴美は真里に通話する。真理の反応が速い。
「真里ー、おはよう」「おぉ、琴美ー、元気になった?」
「全然平気ー」「良かったじゃーん」
いつもの真里の声が聞こえて琴美はほっとした。
「いやー、あれはマジヤバイ状況だったし」
「死ぬかと思ったよ」
「だよねー。琴美逝っちゃったと思ったよ」
真里の顔は見えないが、如何に焦ったかは琴美にも判る。
それが妙に嬉しかった。
「それでさー」「うんうん」
「今日から、梅雨休みじゃん?」
琴美は恐る恐る聞いてみた。本当に今日は休みなのか。
しかしよく考えてみればそんなこと、パソコンの前にいる真里も学校を休んでいると、判った筈なのだ。
「うん。テスト延期になったね」
「ラッキー」「超ラッキー」
真里も調子良く返してきた。やはり今日から梅雨休みのようだ。
「もう、毎日雨降れって思うよねぇ」「毎日は嫌だなぁ」
笑いながら琴美は答えた。真里はテストより雨のほうが良いのか。
「もうさ、毎晩九時のニュースを、祈りながら見てる」
「そうなの?」
琴美は笑いながら自然に聞き返した。
「だってさ『予測が雨』だったら、休みジャン」
「そうだけどさー」
そうなんだと思いながら、琴美は知っていたように返事をした。
「あ、そうだ。英語の試験結構簡単だったよ」
真理が『真実』に気が付く様子はない。話しを続けた。
「そうなの?」「うん。意外と普通だった」
「山ティーの試験不安だったしね」
事故に遭う前に話していたことを思い出す。
「だよねー。でも教科書丸暗記していけば、百点間違いなしよ」
「無理! 無理だから」
さらりと真里も無理を言う。琴美は英語の試験を受けられなかったので、後日追試になるだろう。真里から情報を引き出したかった。
「あ、追試は違うティーチャーが用意するらしいよ」
「えー。真里に聞こうと思ったのにー」
先に言われて琴美はがっかりした。
「私は、英語苦手だから聞いても無駄だよ」
笑いながら真里が言った。そう。確かに真里は英語が苦手だ。
でも、そう言いつつ結構良い点を取る。『苦手』という曖昧な表現は、別の人には異なる基準なのだ。