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海底パイプライン(三百三十三)

 艦長と仙吉爺さんは揃って歩き始めた。手元の頁を一枚捲る。

 例によって親指をペロペロ舐めながら捲るものだから、艦長は手に取らないで良かったと思う。まぁ、それはさておきだ。


「バッテリーと発電機交換って、気安く言ってくれるけどよぉ」

 再びパンパンと仕様書を叩いた。しかし艦長は苦笑いするのみ。

「しょうがないじゃないですかぁ。『大本営』の指示なんですから」

「お前の先輩だろぉ? ビシッと言って来いよ」「えぇえぇ……」

 この『大本営』とは『帝国陸軍』のことではない。『吉野財閥自衛隊の』ことだ。作戦本部と参謀本部、ついでに軍令部までを総帥の直接指揮の下に置かれた組織のことで、司令官、参謀総長、軍令部総長全てが『同一人物の今』は、そう呼ばれていたりする。

 普段から『軍の一部』として機能することも多い財閥の自衛隊は、日本軍と連携するための『連絡係』として、対応する軍別に役職を置いている。しかし実際には『同一人物』だったりすると言う訳だ。

 吉野財閥自衛隊の場合は、どの道『総統のしもべ』であることには変らないので、別に『凄いこと』でも何でもない。使いっパだ。

 まぁ、ちょっとした『皮肉』って奴なので、気にしないで欲しい。


「そんな『先輩』って言ったら、んな全員がそうじゃねぇですかぁ」「俺は違うぞ?」「いや当たり前ですって」「言訳ばっかりだなぁ」

 仙吉爺さんだって、無理なのは百も承知している。艦長を若い頃から知っていて『からかいやすい奴』と知ってのこと。

 勿論、船乗りとして信頼もしている。最初は酷かったけどさ。


「何でそんなにバッテリー容量を増やすんだ? 今でも十分だろ?」「それがね? 爺さん。何か『新兵器』を搭載すんのに必要らしい」「新兵器ぃ? こんなオンボロにかぁ?」「自分で言うぅ?」

 元々『海軍のお下がり』なのだから、それは言いっこ無しだ。

 ちなみに『仙吉爺さん』は、名を『黒峰仙吉』と言い、言葉は悪いが元々は『潜水艦とセット』で売られて来た軍の技術者である。

 今や『生き地引』的な存在であり、『ドックの仙人』とも噂されるお人だ。昔のことは余り語りたがらないが、かつては軍の中でも『エリート』だったらしい。本当かね。と、思うが。まぁ今は良い。


「で、何を乗せるんだ?」「それは後ろの方に書いてあんべぇ?」

 艦長に指摘されて、仙吉爺さんは『あぁあぁ?』と不満気だ。

 それでも頁を捲り始めた。老眼で良く見えないからと眼鏡を探している内に、艦長が勝手に頁を捲るもんだから、もう追えないでいる。眼鏡眼鏡。あぁ、おでこの上にあった。しれっと掛ける。


「ほら。これだよ」「何だぁ『蒼鯨』って。こんなちっこいのどうすんだぁ? 発射管って、魚雷しか積めねぇじゃねぇか」「そうだよ」「人間は?」「いや人間は乗らねぇんだよ」「バッカじゃねぇの? オメェどうやって魚雷発射すんだ」「さぁ。そこはほら、軍に聞いて見ねぇと」「はぁ? また軍に騙されてんじゃねぇのぉ?」「またってそんなぁ。少なくとも俺は『軍に騙されたこと』なんてネェし」「そりゃぁお前には『軍の経験』なんて無いからなぁっ!」

 嫌みったらしく言われては、艦長も流石に『ムッ』とする。

 別にイイじゃねぇか。吉野財閥自衛隊に所属したまま、軍の作戦には従事していたのだから。同じようなモンだって。コラ聞けっ!


「コードが伸びてだぁ? 馬鹿が設計したのかぁ? コリャァ!」「一応津軽海峡では、運用実績があるらしいよ?」「嘘だよ」「いや、ちゃんと帝政ロシアの船を沈めたらしい」「マジでェ? これがぁ?」「マジでマジで。総統が『ある伝手』から聞いた話だとね」

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