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海底パイプライン(三百三十二)

「スゲェとこだなぁ。屋根もあって、最高じゃん」

 ハッチから顔を覗かせた乗組員が手を止め、そのまま辺りを見回す。まるで警戒しているかのようだが、そうではない。

 何せ五人目から六人目。既に安全は確保されているのだから。


「早く降りろよ」「あぁ御免」「まぁ、判るけどよぉ」

 ほらね。早速責付かれてしまった。慌てて梯子を登り、艦の上に出る。手にした荷物は最低限であるが、元々が少ない。実に身軽な上陸である。これが『豪華客船の下船』であれば話は別だが。

 もっとも『お値段』だけ見れば、豪華客船より潜水艦の方が十分高価には違いない。『船旅』と言えるかは別として『充実している』のは確かだ。それこそ寝る間も惜しんで。あっ、昼と夜の区別が。

 まぁほら、毎日様々な『イベント』も盛沢山だし、それでいて専属コックによる栄養満点の食事だって、三食保証されているだろ?

 酒が『別売り』なのも一緒じゃん。え? 何処で売ってるのかだって? そんなの教えられる訳があるまい。ナイショだよナイショ。


「後で幾らでも見れるからさぁ、先ずは飲みに行こうぜっ!」

 背中をドンと叩かれて下船を促されてしまった。そこへ三人目。

「俺は早く一服したいよ」「あぁそれ、判るよぉ」「行こうぜ」

 タバコを吸う真似に苦笑いだ。艦内は勿論禁煙であるからにして。

 酒は隠れて飲めても、タバコは絶対に無理である。だからと言って、海上を行く艦であってもダメなのは変わらないのだが。

 仲良く上陸を済ませると、そのまま通路へと向かう。潜水艦は既に、多くのドック作業員が群がっていた。船体工や塗装工だ。


「あそこが出口通路でな、ココは『二番ドック』だ」「うん」

 指さして説明しているが、特に『案内看板』は設置されていない。

「間違えて『一番ドック』の方には行くなよ? 向こうは『海軍』だからよぉ」「へぇ。決まってんだ」「いや、厳密に言うと『官民共用』なんだけどさぁ、実質上ウチと使い分けてるって感じ」「なるほどぉ」「間違えると、ぶん殴られっからなぁ? 気ぃ付けろ」「嫌だなぁ。何でだよ」「噂によると原潜も偶に来るらしい」「マジィ? 何しに来んのぉ?」「知らねぇよ」「だからぶん殴られるんだって」「おい見ろよ。知ってっか? あれが『仙吉爺さん』だ」「あぁ、噂には聞いた聞いたことが。どれ?」「馬鹿。指さすなっ」

 パチンと腕を叩かれて一喝。三人は出口へと急ぐ。

 これから『飲もう』ってのに、煩型の仙吉爺さんに絡まれたくはない。そんなの御免蒙るってぇもんだ。


「コラッ! 三郎太ァッ!」「誰?」「艦長だよ」「艦長『三郎太』って言うの? マジ?」「知らねぇの?」「初めて知ったぁ。古風な名前だなぁ」「どうでも良いだろう。ホラ行くぞっ」「あぁ」

 噂話が仙吉爺さんに届いたのか、チラっと振り返ったではないか。退散退散。艦長へ『一言入れる』のを、優先してくれますように。


「爺さん『三郎太』は止めて下さいよぉ。今は艦長なんですからぁ」

 周りの『クスクス笑い』を気にしつつ、艦長の方が急ぎ走り来る。

「お前だって俺のことを『爺さん』って呼ぶじゃねぇかっ!」

 手にした書類を何度も叩いているが、それとこれとは関係ない。

「そりゃぁ昔から『爺さん』だからぁ」「俺ぁ昔は爺さんじゃねぇ!」

『十年ひと昔』だろうが。艦長は口をへの字にして書類を覗き見る。

「それに『この改修』は何だっ!」「何だって言われてもさぁ。別に俺が決めたんじゃねぇし。何ぃ? 爺さんコレ、出来ねぇのぉ?」

 仕様書を取り上げようとした艦長を見て、直ぐに手を引っ込めた。

「馬鹿『出来ねぇ』なんて誰も言ってねぇ」「えぇ、ホントにぃ?」

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