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海底パイプライン(三百三十)

 不審船が真っ二つに折れ、海底に沈むのと同時だった。

 木端だけが散らばる横で潜水艦のハッチが開く。一つは艦首方の、続けざまに艦橋も。出て来たのは髭面の艦長だ。渋い顔。


「被害を確認しろっ!」『アイアイサーッ』

 艦首方のハッチから飛び出した一人が大声で叫び、敬礼してから直ぐに『事故現場』へ。足音を追ってもう一人。あらら。更に一人。

 この際、何人出て来るやら。と、艦橋の方も首がひょこんと覗く。


「何か凄い音したけど、何だったんですかねぇ?」「早く見てみろ」

 どうやら副長らしい。不機嫌そうな艦長が顎で指した方を見た瞬間、顔が青くなった。既に沈んでしまったらしいが、多分漁船だ。

 薄っすらと煙が流れて来て、それをパタパタ。折角『新鮮な空気が吸える』と思ったのに、重油臭い空気なんて、艦内と一緒じゃん。

 副長は双眼鏡で覗き込む。艦長はそんな副長を苦笑いで見つめる。


「生存者は居ないようですねぇ」「そりゃぁあっという間だろうな」

 船上に居て投げ出されたなら兎も角、船内に居たならば助かるまい。海上の浮遊物と漂う臭いからして、一発か二発派手に爆発したように思える。見てないから判らんけど。しかし漁船が何故。

 あれか。ダイナマイトを放り込む『伝統漁法』でもしに来たか。


「で、遭難届は? どうします? 艦長」「いやぁ『要らねぇ』って言うと思うぞ? 奴らはよぉ」「えぇえぇ? 良いんですかぁ?」

 この潜水艦も吉野財閥自衛隊所属である。硫黄島のパイプライン警護を終えて、基地に帰投して来たら『コレ』である。

 階級が上の警備艇艦長から『ココで浮上せよ』の指令を受け、注文通り浮上したと言う訳だ。まぁ『責任は俺が取る』って言うのだから、こちらとしては何も言うまい。いやちょっと待て。

 確かに『塗装替え』を含むオーバーホールを予定していたのではあるが、だからと言って、無暗に『艦を傷つける』ような真似はさせるなと言いたい。まぁ、軍のお下がりであるオンボロ中古艦と言えど、漁船が体当たりした位では、傷一つ付くかどうか。


『艦長っ! スクリューでガリガリやられたっぽい跡が』「あぁ?」

 艦長の返しが怖い。如何にも『ざけんな』の意味が込められて。

 ほら見ろ。血相を変えて、艦橋から降りて来たではないか。梯子を下る音まで怒りに満ちて。これは絶対に怒られるパターン。

 いや『第一発見者』なだけで、別に何も悪くないのだが。


「たくっ! 何処のドイツだっ!」「……」「……」「……」

 こういうとき『ドイツ人』は気の毒に思うばかりだが、こちらとて無事には済むまい。誰よりも早く『旨い空気を吸おう』としたばかりに、艦長の雷撃をまともに受ける羽目になってしまうとは。


「あぁ。こりゃ結構深く入ったなぁ」「航行不能でありますか?」

 艦長は傷を手で触っていたが、顔をパッと上げた。

 聞いた下士官の手を握り締め、グッと引っ張る。別に『海に投げ捨てよう』って訳じゃない。『お前も触って見ろ』と言っている。


「どうだ。水漏れして来そうか?」「いえ、大丈夫だと思います」「じゃぁ、何で『航行不能』になるんだ?」「すいません。これ位の傷なら大丈夫でした」「馬鹿たれぇ。雑音の元だろうがぁっ!」「あっ、すいません」「ドック行きだぁドック行きぃっ! 戻れっ」

 艦長に言われたらさっさと戻るしかない。深呼吸は一旦お預けだ。

 警備艇を一睨みした艦長も、艦橋に合図して艦首から艦内へ。

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