海底パイプライン(三百二十四)
世の中『起こりそうも無い』と考えたことは、きっと起こる。
と言うことは、『起こる』と考えていれば、きっと起こらない。
『パシャーンッ』「何だぁ?」『ザブーン』「波だよ」
エンジン音に混じって、『何か大きな音』がしていた。その直後、閉じたドアの向こうで激しい水音が。うん。確かにそうかも。波だ。
しかし万が一、いや千が一。もしかすると一が一の確率で、『何か』が起こっている疑義あり。『嫌な予感』を超越した何かが。
「見てみろっ」『パッシャーン』「波だって」『ザプーン』「なぁ」
話している間にもう一度来ていた。指さして示しても無駄か。
逆に腕を何度も振りながら、小窓の方を指し返されている。
「見りゃ良いんだろぉ。見りゃよぉ」「早くしろっ」
言いながら席を立ち、窓へと歩み寄っていた。速度が一定であれば、例え時速九十七万キロ(銀河系内公転速度まで含む場合)だろうが立ち止まって居られるのと同じだ。つまり今は、誤差の範囲内。
「見たってどうにもn」『パシャーンッ』「うわっ!」「おぉっ!」
開けた瞬間、二人の目には巨大な水柱が。これは近い。近過ぎる。
跳ね上がった水が、窓を目掛けて飛び込んで来たものだから、一人は思わず尻餅だ。一瞬で『水中か』と見まごう程に。
同時に『ドンッドンッ』とノックが。『こんにちわ』にしては強烈。いや、もしかして今のは『開けろっ』か。沈んでしまうわっ!
『そこの船! 止まりなさいっ! 止まれっ! ストップ!』
ちょっと違ったが、いずれにしても似たようなもの。
かなり近くに来ていて、今は『殆ど平行』と言いたい。何故『殆どなのか』と言えば、良く判らないから。だって見るの怖いし。
「だいぶお怒りのようだな」「怒ってるなんてモンじゃねぇだろ」
誰かが言った。『砲弾なんて当たらなければどうと言うこともない』と。確かにそう。今正に『生きた体験を継続中』であるからにして。ほらぁドンドン撃って来いよぉ。どうしたぁ。次弾装填中k
『パシャーンッ』「近っ!」「でも、また外したし」『ザプーン』「こういうのって『わざと外している』って、聞いたことがある」
口笛男の一言で、二人の表情は『苦笑い』から『真顔』へと。
しかし二人には勿論、余計な一言をほざいた口笛男にだって『この状況』を止められはしないのだ。今直ぐ船を止めるなら、エンジンを斧で叩き壊す位しか思い付かない。又は鋼鉄製の別の何かで。
『パシャーンッ』『グラッ』「うわぁっ!」「当たったっ!」
今度は船が揺れた。思わず掴まって耐える。そして若干の後悔。
「当たったらこんなモンじゃないっしょ」「判ってるよっ!」
よりによって口笛男に指摘されてしまうとは。今の衝撃で、くの字になってしまっている奴にだ。これ以上の屈辱があるだろうか。
誤魔化すように窓の外を見た。見た所で、今更どうにもならない現実に、何ら変更はない。がしかしだ。見た所、警備艇との距離が若干変わったか。記憶違いだと嬉しいが、さっきより近いような。
「これ、当たんじゃね?」「どれ。見せてみろ」『パシャーンッ』「あぁ見えねぇ」『ザプーン』「んんー。どうだろうなぁ」
角度と距離と速度からして『前を突っ切れる』か否か微妙。
「俺にも見せてくれよぉ」「何だお前ぇ判んのかよ」「うん」「怪しいなぁ」「俺RYA持ってるし」「はぁ」「あぁこれ、当たるわ」




