海底パイプライン(三百十九)
録画した映像ファイルは全部で三つ。一号のファイルを閉じた男は口をへの字にする。『まだマシ』とはどの程度のものなのか。
難攻不落と言われた海底パイプラインへ、人と金を掛けて何とか潜入した結果がこの程度では『失敗も同じ』だ。報告に窮する。
『クゥン』「おいおい。こっちも早々に止まっちまったじゃねぇか」 パイプラインの横にある作業用通路を歩き始めて、割と直ぐのことだ。『フラフラし始めたニャー』と思ったら案の定横倒しに。
そのまま動かなくなってしまったではないか。何処が『マシ』よ。
「一号と二号の『共通項』は?」「早々におっちんだってこと。全然役に立ってネェじゃん」「何で死んだ?」「えぇえぇ?」
それ考えるの『研究所』の奴らじゃねぇの? とは言えない。
逆再生して二号を観察してみる。やはり何も無い。一号と見比べたとて同じだ。どちらも作業用通路に入って直ぐ、パタンキューだ。
「根性見せろよなぁ」「それは言える」「じゃぁ『船酔いしてた』とか」「えぇ? 麻酔で眠らせといても、船酔いってするモンなの?」
マンタに重石を付けて、海中に投棄した奴らも船室に入って来た。最後の質問だけは聞こえたようで、一人が『判る?』の仕草。
「さぁ。俺は犬じゃねぇからなぁ」「似たようなモンだろ」「いつも尻尾振ってなぁ」「ワンワンッ! 餌下さい」「コノヤロウッ!」「うわ怒った」「本当のこと言われて怒りやがったっ!」「ハハハッ」
ここに居る全員『似た者同士』だ。それは自覚している。上司である『首領』には、絶対に逆らえないのだから。
「で、何だってんだよ。ちゃんと撮影出来たんだろうなぁ? あんだけ苦労して『カメラのスイッチ入れ忘れました』なんて、目も当てらんねぇからなぁ?」「まぁ映っては居るよ。映ってはなぁ」「何だよそれ。ちゃんと報告出来るようなモンが映ってんだろうなぁ?」「まぁ見て見ろって」「ダメならやってらんねぇぜ。どれぇ」
画面の前を譲る。が、その前に、一号と二号の映像を順次再生させてからだ。ほら。お望みの映像を拝んでみやがれ。
「おぉ、ちゃんと映ってんじゃん。行けよぉ。一号二号っ!」
とても満足そうに頷きながら画面に食い入る。奴は首輪にカメラを取り付ける等、色々改造を施した『張本人』なのだ。
しかしそれも束の間のこと。画像が右に傾き始めると一緒に体を傾け始める。やがて『パタン』と倒れたのと一緒に『倒れてしまうのか』と思った所で何とか耐えた。振り返って大きな声で一言。
「これだけぇ? ねぇ、これだけなのぉ?」「そう」「そんだけぇ」
一言で済まない気持ちも判る。もう一度逆再生させたとて同じだ。
今度はあからさまに『不機嫌な顔』となって振り返った。
「どういうこと? 首輪締め過ぎたんだろ。俺が画角を調整しといたのに」「いや触ってネェって」「嘘だろ。窒息じゃねぇの?」「だから首輪には触っt」「じゃなきゃ何でそう簡単に死ぬんだヨッ!」「それを今考えてたんだろう」「だから窒息だって」「ちげーって。首輪は言われた通り触ってねぇって」「じゃ何でこんな『ゼーゼー』言ってんだよ」「どこぉ」「ホラここぉ」「どこどこぉ」「ココォ」
指さしたのは二号の方だ。確かにカメラが細かく揺れている。
「なぁ?」「じゃぁ、でもさぁ一号の方見てみぃ?」「違うのぉ?」「良いから見ろよ。こっちは『パタンキュゥ』じゃねぇか」「あら」




