海底パイプライン(三百十四)
「ヨシッ! 捕まえたぞっ!」「やった。投網作戦成功っ!」
網と一緒に兎も飛び込んで来ていた。もうヤケクソになって放り投げた網の下に『兎の方が飛び込んで来た』と言って良い。
ほぼ偶然の産物である。しかし兎を回収するのは困難な様子。
「何だこりゃぁっ」「ざけんな、何だこのモフモフは、イテッ!」
捕らえられた兎も必死である。思いっきり足を延ばしていた。
今更捕まったとて『森に帰る』のが無理なのは明らかだ。しかしそれでも『生きること』に執念は燃やし続けている。
一つ言えるのは、兎は決して『大人しい動物』ではないことだ。見た目からして美味しそうで、その辺は『女性の例え』としても良く使われる兎だが、実際は噛みつくし、鳴き声も煩い。
「キィィィッ! キィィィッ!」「大人しくしろっ!」
ほらね。押さえつけた位ではどうにもならぬ。優しく捕まえようとしているのに、そんなに暴れられては手荒なこともせねば。
「放せコラッ!」「触んじゃねぇ!」「お前らに言ってんだよっ!」
兎を押さえる前に、喧嘩を始めた馬鹿二人をなんとかせねばならない。万が一にも兎が逃げ出そうものなら、後はコイツ等に捕まえてもらう決意だ。嘘じゃない。例え飯の時間になっても許すものか。
「良いぞっ! 押さえたっ!」「ヨシよし良し善しぃ」
無事『首根っこ』を掴んでやると、途端に大人しくなった。きっと『鷹に食われるとき』もこんな感じなのだろう。
人はこれを『まな板の上の鯉』と言う。実際は兎だけど。しかもそんな風に言うのは、日本人だけか。
もしかして『鯉を食す文化』が、日本だけだから? じゅるり。
「どうする? 食っちゃう?」「イイねぇ」
ジロジロ見たのは『四つ足』か、それとも『二人で四つ足』か。因みにだが、大きい方はまだ倒れたままだ。網に絡まって。
「ヤメロよ」「馬鹿。オメェらじゃねぇよ」「イテッ。蹴るなよ」
韻を踏んでからやっと立ち上がった。やはり『食う立場』の方が良いに決まっている。実際兎の目を見れば『助けて下さい』と訴えているようだが、残念。運命は既に『晩御飯のおかず』で決定だ。
「じゃぁ、コイツにテープを巻いとくか」「手こずらせやがって」「きっと何処かで、せせら笑っているんだろうなぁ」「ムカツクぜ」
捕まえた段になってから仲直りか。実はまだ頬がヒリヒリする。しかし、ここで『銃をぶっ放そう』としたのだから致し方ない。
『おぉおぉいっ、捕まえたかぁあぁっ!』『捕まえたかぁ』『略』
応援を呼びに行った仲間が上から覗き込んでいた。手持無沙汰の者が上に向かって手を振ると、両手でメガホンを作って叫ぶ。
『テープを巻くなぁ』巻くなぁ』巻くなぁ』「巻くな、だってさぁ」
意外過ぎて『ふざけている』と思い、笑いながら兎を指さす。
発見した『監視カメラ』には、速やかにテープを巻き付ける。これが『六番隊の鉄則』なのだ。当然『安全を考慮して』のこと。
他の隊ならまだしも、熟知している仲間が言うには冗談が過ぎる。
『巻いたら爆発するぞぉ』するぞぉ』するぞぉ』「だってさぁ」
既に巻き終わった状態を指さしたが、巻いた方だって笑っている。
「何がだよ」「『するぞぉ』だって」「どこの象だよw」
構造上『反響し過ぎる』のも良くないのか。『何』に良くないのかは、今の所明らかになっていない。が、もし『次に建てる機会』があったときのために、とりあえず設計者には言っておこうと思ふ。




