海底パイプライン(三百十四)
「おいっ! そっちに行ったぞっ!」「任せろっ!」
海底パイプラインの中継所『P3』は、大騒ぎになっていた。
硫黄島から伸びたパイプラインは、ここ『P3』から分岐する。メンテナンスによる流路の切り替えやトラブルに備えるためだ。
分岐に必要な切り替え器や、圧力計測機器が必要となるため、ある程度の広さが確保されているのだが、今はそれが完全に裏目となっていた。さっきから『うさピョン』が逃げ回っているからだ。
「この野郎っ『今年の干支』だからってイイ気になるんじゃねぇ!」
特に関係無いと思うのだが、思わず叫びたくなるのも解る。
「何言ってんだ。卯年はとっくの昔に終わってんだろうがっ!」
まるで次回からは『猫年になる』と言うかの如し。しかし叫んだ所で兎は捕まらない。当の兎にしてみれば、卯年だろうが猫年だろうが関係無いのだから。大体干支なんて年末年始しか思い出さぬ。
「ホラッ!」『ピョーン』『ガンッ!』「痛てっチキショーッ!」
任せろなんて言うからだ。勢い余って計測器にぶつかってしまった。その上『踏み台』のように背中をジャンプ。兎が逃げ果せる。
「ワハハッ。おい壊すなよぉっ!」「うるせぇっ捕まえて見ろよ!」
おでこを押さえながら指さすが、既に兎の姿は無い。機器の隙間から裏側に入り込んでしまう。直ぐに懐中電灯で照らす。
しかし覗き込んでいると、全然違う場所から出て来る始末だ。
『ピョーン』「あっ!」「そっち行った! 網で押さえとけよっ!」
網を持って待機していたのだが、暫く来ないので油断していた。
慌てて網を出した所で、捕まえられる訳が無い。兎の『障害物競走』は終わらない。このまま果てしなく続きそうだ。
「あぁあぁっムカつくっ! もう銃使っちまおうZE!」『ガチャ』
ブチ切れた一人が遂に銃を手にした。当然発砲禁止区域だ。いやいや火気厳禁。マジで本気で。当然、賛同者なんて居ない。
「おいあぶねぇなっ! コッチ向けんなよっ!」「あぁあぁっ?」
賛同ではなく『叱責』が飛ぶ。そもそも銃口を『味方向けない』のは、銃を扱う上での基本事項だ。幾ら頭に血が上っているとは言え、それを指摘されて尚『逆切れ』とは恐ろしいこって。
「何だおめぇ。ココで発砲して良いと思ってんのかぁ?」「誰が発砲するなんて言ったぁ。俺は『銃で殴れ』って言ってんのっ!」
売り言葉に買い言葉。果たして粗利は幾らになるのか謎である。
しかし有言実行とばかりに銃剣を取り出した。それを銃先に装着しようもんなら冗談じゃない。仲間に刺さったらどうするのだ。
「あぶねぇだろっ、しまえっ!」「これで串焼きにしてやんだよ!」
頭の中では既に『調理』まで始まっているようだ。
兎を銃剣で刺して殺し、血抜きをして皮を剥ぎ、三枚に下して炭火で焙ろうって魂胆が見え見えだ。その後は首を剥製にして、暖炉の上にでも飾るか。まぁそれも良かろう。許可する。
「ここは『火気厳禁』だって、言ってんだろっ! 目を覚ませっ!」
思いっきり頬を平手打ち。景気良く『バチンッ』と音がして、その後は『カラーン』と金属音が。持っていた銃剣が床に転がった。
「何だこの野郎っ!」「まだ目が覚めねぇのかっ!」
流石に銃は放り出しての殴り合い。そこへ上から網が被さる。




