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ガリソン(十四)

 まるで日曜日のようだが、今日は間違いなく水曜日である。

 しかし、父も会社に行く気配はないし、優輝も学校に行く気配がない。本当に今日から『梅雨休み』らしい。


 午後辺りから雨だとしても、この天気なら出掛けるのも悪くなさそうだ。屋根のある所。そう、例えば映画館とかなら平気だろう。

「いい天気だねぇ」

 そう琴美が言うと、アニメを見ながら父と母が反応する。

「昼から雨だぞ」

「それは昨日の予測。今日は十時半から雨って言ってましたよ」

 それなら折り畳み傘を持って、少し早く家を出たら良いだろう。

「それは危ないなぁ」

「そうよね。洗濯物は部屋にするわ」

 何が危ないのやら。母は洗濯物に神経質になり過ぎである。琴美は肩を竦め、父母に倣い、アニメを見ながら話す。


「じゃぁ、映画でも観て来るから」

 直後、父と母が『ぽかーん』とした顔で振り返った。

「約束してるのか?」

 真顔になった父の顔。昨日の『風呂場の窓』を思い出す。

「ううん」

 琴美は首を横に振った。しかし、約束をしていないと行ってはいけないのだろうか。あとで真理に『口裏を合わせて』貰おう。


「雨が降るのよ?」

 母が念を押すように言うが、それがどうしたと言うのだ。

「折り畳み持って行くから」

 ごはんを口に入れたので『大丈夫』とは言ってない。


「折り畳みって、あなたそんなんで……」

「まだ梅雨入りしたばっかりなんだから、外出しなくても良いだろ」

 琴美は少し『ムッ』とした。

 休みの日に、電車に乗って映画館に行くのが、そんなに言われなければならないことなのか。高校生なんですけど?


「真里ちゃんに声掛けてみよっと」

「とんでもない!」

 大きな声を挙げたのは父だ。その声を聞いて優輝が動く。スススッと席を立ち、早々にダイニングを引き揚げる。

『巻き添えはごめんだ』と言う、彼なりの意思表示だ。


「雨の日に、女の子が外出するなんて!」

 母が顔をしかめて言うと、父も頷いて琴美を睨み付けた。

「そうだ。真里谷さんのお父さんだって、許す筈がない!」

 琴美は、もう何かめんどくさくなった。


「もう良いっ。寝てるっ!」

 まだ何か言いたげな父と母を残し、琴美もダイニングを出た。


 階段を昇る途中にある窓から外を見る。少し灰色の雲が流れているが、良い天気だ。

 琴美は窓を開けると外の空気を吸い込んだ。清々しい空気である。

 夏が来たら、海にでも行きたい。だが、それはダメだろう。『受験生でも海に行って良い』という法律が、この国にはないからだ。

 優輝の部屋から大音量のネコロンダーソングが聞こえてきた。

 琴美は溜息をつく。『お前は楽しそうだなぁ』と思いながら。

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