海底パイプライン(三百十)
「えっ、やっちゃったじゃなくて救急車っ!」「もう回線切れたよ」
混乱する牧夫に、落ち着けとばかりに言う。しかし今のは、どう見ても『爆発』じゃないか。何故に落ち着いて居られる。
燃え広がっているかもしれないから、消防車だって必要かと。
「ホラ仕事ぉ。締切過ぎてんのを忘れんなぁ? 扉、開けろよぉ」
3D映像はもう『コックピット』に戻っていた。高田部長がチョチョイと管理画面を切ったからだ。ちょっと待て。
「いやいやいやいや」「いやいやいやいやぁじゃネェよ。早くしろ」
何処から掛かって来たのか知らないが、119番しなさいって。だからどうしてそんなに冷たくなれるのか。意味判らん。
「救急車呼んであげて下さいって。お客様なんですよね?」「いや、俺金貰ってないし」「でも仲間なんじゃ」「お前、家の関連会社ってだけで何万人居ると思ってんの」「人数の問題じゃないでしょ。目の前に『助けてくれ』って来た人が、高田部長の指示通りやったら爆死したんだから、救急車呼んであげないと!」「えぇー、俺のせいじゃネェよ。只の実力不足だろぉ?」「ひでぇ。前々から酷い奴だと思ってましたけど、やっぱり酷い奴ですねぇ」「判ってんじゃん。それに言っとくけど『爆発の原因』を作ったのはお前だからなぁ?」「何で俺なんですか」「ほらやっぱりそう来た。前々から直ぐ人のせいにする悪い奴だなぁって思ってたけど案の定だよ」
プンスカ怒っている牧夫を尻目に、高田部長はピピピッと操作して『机モード』に戻す。そして再びコンソールをパパパッと叩き、録画された映像をワワワッと流す。
『キリキリパカン』『これぞ我が社の未来っ! 爆発』『ニャッ』『カターン』『ボォオォオォンッ!』『ニャァアァッ!』『記録すること間違ぃ』『保存先に書き込み権限が無いので消去s』『カタカタカタッ』『一時退避エリアに保存しました。保存期間は本日中』
一体何を見せられているのか。牧夫は茫然自失だ。自分の姿と小町の映像、そして流れて来る人工音声を聞いていた。
自分がコンソールを叩いていたら、こうも素早く録画と保存なぞ出来なかっただろう。記録さえあれば後で反省材料にもなり得る。
「いやそうじゃなくてっ!」「ほら。お前が『爆発』なんて言うからぁ、小町がネジ落として、拾おうとして部品を引っ掛け『プツン』ってなったんだろうがぁ。全部お前がいけないんじゃねぇか」
半笑いで攻め立てられる程、ムカつくことはない。
それをよりによって高田部長からやられると、常人の五百十二倍はイラつく。だとしても、ここは我慢だ。
「だったら俺のためにも救急車呼んであげて下さいよぉ」「お前ぇ、自分が満足するためだけに救急車を使うんじゃないよ」「そーゆー言い方は無いでしょぉ?」「それに、どっから発信すんだよ。ココはお前ぇ『空母の腹ん中』なんだぞぉ?」「……」「ほら見ろ。無理じゃねぇか」「じゃぁ無線で」「停泊中は使えましぇん」「えぇえぇ? マジィ?」「マジマジマジ」「でも電話掛かって来たじゃないですか。矛盾してますよ」「あれは『着信』だろ。お前大丈夫か? んなこと位判んねぇで。『電話のプロトコル』から勉強し直した方が良いんじゃねぇ?」「はーいそうしまーす。やり直して来ますので、テストお願いしまーす」「馬鹿言ってねぇでやれっ! お前人のこと心配する前にテメェのこと心配しろ? このまま終わんなかったら軍法会議に掛けられて、良くて銃殺だからなぁ?」「何すか良くて銃殺って」「悪くての方も聞きたい?」「えぇ教えてくださいよ」「教えなーい。それは、お・楽・し・み♪」




