海底パイプライン(三百九)
高田部長とまともに付き合うのは、かなり難しい。
パッと見は背が高くスマートで、時折冗談を言ったときの笑顔が素敵な『ジェントルマン』だ。服装だって気を遣っていると判る。
ヌンチャクやらナイフが隠されている割にはお洒落だし、伊達眼鏡だってまさか『盗撮機能付き』なんて思わないだろう。
だってTPOに合わせるが如く、毎日変えてるし。
「リード線の付け方がおかしい。こいつ、一度分解されてるなぁ?」
何だ。新しい伊達眼鏡は『ズーム機能』でも付けたのか?
4K相当とは言え、隣で同じ画像を見ている牧夫にも皆目見当が付かない。チョロリと見えるだけの線の行先が。
伊達眼鏡をチョンと触っただけで、それを見破るとは。
『えっ、どの辺ですかニャ? 良く判りましぇん』「あっ見えん」
小町の頭がカメラに大きく映り込んでしまい、高田部長は思わず伊達眼鏡を外す。牧夫は『眼鏡』と『素顔』のどちらを見るべきか迷うばかりだ。ここは素直に『高田部長の技術力』を称えるべきなのだろう。
あぁ、それが土台無理な話だと言うのは判っている。嫉妬ではない。あくまでも人として。同じ地球に住む人類の一員として。
しかしまぁ、離れていても『肉眼より良く見える』とは如何に。
「まぁ良いや。ちょっと見えないよぉ」『すいませんニャッ!』
小町の頭がシュッと消えて、小町の顔が見えた。上を向いたか。
手入れの行き届いた長い黒髪に、優しい目をした大人しそうな娘ではないか。しかし申し訳ないが、琴美の方が可愛いけど。
現実離れした『牧夫の妄想』に、誰も付き合っている暇は無い。『首輪の内側』が良く見えるよう位置を調整し始める。と同時に自動でズームイン。それに伴い、残念ながら小町の顔はフレームアウトして見えなくなった。高田部長はと言うと、別に『小町の顔』なんぞどうでも良いらしい。それよりも『レンズの方』が気になる。今は眼鏡拭きで入念に掃除中だ。
ズームアップが終わった所で伊達眼鏡を掛け直す。いや『そういう仕草』だけは、本当に目が悪いと装っているようにしか見えぬ。
「マークの下にビスあるからぁ。そっから分解出来るよぉん」
パッと見『何処からバラせば』と牧夫は思っていた。誰かさんを『信じる』『信じない』では無く、判らんモンは判らん。
しかしハードの設計をした者なら解るだろう。『隠しビス』の一つや二つ仕込んだりする。『ココ触ったら保証外ですからネェ』を見分けるためにも必要不可欠。別に解体作業を邪魔しようとしている訳じゃない。『どうぞ好きにして下さい』である。知らんけど。
受話器を置いた小町がヘラで『NJSマーク』を外す。すると確かに『隠しビス』が現れた。今度は細いねじ回しを取り出して。
「これ、OEMにも対応出来るんだ。名案だろぉ」「何処が出すんですか。こんなモン」「えぇ。ひっどぉい」「ウチだけですよぉ」
同じ大きさの『マーク』をはめ込めば良いと思ってのことだろう。浅はかな考えだ。誰が『怪しい仕掛け付き』の首輪なぞ欲しがるか。
「本部長の発案なのになぁ」「えっマジでぇ?」「後で言っといてやるよ。牧夫が『くだらねぇモン作りやがって。こんなの売れるか』っt」「素晴らしいアイディアですっ! これぞ我が社の未来っ! 爆発的な売り上げを記録すること間違ぃ」
『ボォオォオォンッ!』「なおぉっ!」「あぁあ。やっちゃったぁ」
画面がブラックアウトしたのに、高田部長は笑顔だ。




