海底パイプライン(三百八)
『ハイ。犬から採取されましてニャ』「おやまぁ?」
今の『勝つる武装』とは、NJSの軍需部門が発刊している月刊カラログ誌だ。表紙がやけにエロい軍服姿の民需版と、陸海空の軍服を着用した陸軍版、海軍版、そして空軍版がある。
いずれもキッチリ制服を着てポーズを決めているので、『面白味』には欠けるか。しかしそれはそれで『人気が有る』と言えよう。
軍からは毎回『全量廃棄した』と連絡が届く。理由は『ボタンが弾け飛びそうなのが実にけしからん』とのこと。故に返本は皆無だ。
「パイプラインにワンちゃんが居たの?」『はいニャ』
牧夫は高田部長が『アルバイト先で何をしているのか』なんて知らない。であるからして当然、質問の意味も、答えの意味も理解不能だ。興味本位で『首輪』の方を眺めていたが、高田部長の横顔に視線を移す。
「誰が散歩させてたの?」「散歩って……」『まだ判らないニャ』
思わず『犬の散歩姿』を想像してしまった。これは生成AIをもってしても、そうは簡単には絵になるまい。
「どうせ『奴ら』じゃないのぉ?」『そうですかニャァ……』
奴らとは日本海側で油田開発を行っている『国際鉱油』のこと。運営する発田財閥とすこぶる仲が悪いのは、業界内でも有名な話だ。
「絶対そうだよ。今度苦情言っといてやるから」「決め付けぇ」
『だとしてもですニャ、コイツがパイプラインにまだニャッポしている可能性がニャァ』「それはまずいねぇ」『ニャので『解除する方法』を、至急教えて欲しいのですニャァ』「そう来ましたか」
何がまずいのか良く判らないが、腕を組んで考える高田部長を久し振りに見た。本業にもそれ位真剣に取り組んで欲しい。
「それ、ワンちゃんから外して何分経った?」『四日。いえ、まだ五分も経ってません』「あっそう。じゃぁまだ時間あるか」
意味深なことを聞いて高田部長は笑う。この笑いを『余裕の笑み』と受け取るのはずぶの素人で、牧夫レベルの玄人になると見方が随分と違って来る。
「今度からもっと短めにしとくか」「そう言うと思いましたよぉ」
「何だよお前。酷い奴だなぁ」「どっちがですか」『ニャァ……』
小町が困って天井を向いた。天上界の二人が言い争いを始めても、自分にはどうすることも出来ない。特別顧問も陸軍からマークされているが、その相手に至っては『恐れている殺し屋』なのだから。
陸軍が送り込んだ『最終兵器』を、いとも簡単に始末したとなればそれも当然か。寧ろ最悪の結果だ。
小町も多い年で『三人ペース』を維持してはいるものの、『キルカウント』に於いては、二人の足元に遠く及ばない。
「あれ? もしかしてカメラ塞いじゃった? 塞いでから何分?」
『早く言えよ』と、牧夫でさえそう思うのだから、現場の小町達はもっと思っているに違いない。慌て始めたのがその証拠。
『ニャンプン経ったのじゃ』『このテープ貼ってから何分だっ!』
電話越しに野太い声が聞こえて来る。ニャんでそうなってる?
『さささ、三、四十分です』『ニャンでもっと早く持ってこニャかったのニャァッ!』『貴様ァッ、わざとゆっくり持って来たなぁっ!』
何か『翻訳』なのか『意訳』なのか。やりとりを見て聞いている側は、『そうは言ってないだろう』と突っ込みたくもなる。
「じゃぁまだ平気だな」『ニャッ』『ガクッ』『ガクッ』「おいぃ」




