海底パイプライン(二百九十七)
行きと同じルートで戻ると、満はそこに突っ立っていた。
警備をしていた六実が『三咲が戻って来た』と気が付いて近付いて来る。しかし最初に現れたのは三咲じゃない。633だ。
「三咲は?」「フゥウゥ。来ますよぉ」「やれやれ。戻りましたぁ」
親指で後ろを指さしたが来たのは632だ。ガスマスクを外してホッとしている。そして手に持っていた袋を六実に見せた。
「お土産です」「要らねぇよ。どうせ『首』とかなんだろぉ?」
物凄く嫌そうな顔をして押し退ける。満は誰からも相手にして貰えていないが、六実と一緒に顔を顰めた。何だよ首って。
もしかしてあれか? 『首チョンパする瞬間』を見せないがために、先に上がらせたとか? だとしたら『ウゲーッ』だ。
「大丈夫ですよ。今日は全身入ってますから」「んな訳ねぇだろ」
六実も満も袋の中身が『犬の死体』とは思っていない。
想像もしてはいないだろう。大体そんなパイプラインに『何か』が見つかるとしたら犬なんかではなく『鼠』である。そして今までの経験から言えば『人間を表す』ことの方が多かった。誰が信じる。
「鼠の死骸じゃねぇの?」「違いますよ」「さぁ、何でしょう!」
急に『クイズ大会』が始まった。六実は渋い顔になって、恐る恐る袋の下をポンポンと。もし632が『ホリャァ』と手を離したら六実だって『ウワァッ』と叫び、袋は床へと落ちるだろう。ぐしゃ。
『何やってんだ。あぶねぇから遊ぶな』「おいおい」「フゥウゥ」
最後に三咲が出て来た。収穫したのが珍しいものが故に『弄んでやがる』と直ぐに理解。先ずは注意してからガスマスクを外し、満に『ハッチを閉めろ』と合図した。満が『出番だ』と飛んで来る。
「で、結局何? これ」「犬だよ」「まだ子犬でして」「へぇぇ」
632に袋を持たせたまま三咲が袋の口を開ける。そうして六実が覗き込む。満もハッチを閉めながら覗き込もうとするが、見えん。
「いや、これ成犬なんじゃね?」「そうなの?」「多分」「あっ、触んない方が良いぜ。首輪にリード線繋がってるし」「おいおい」
犬種を確認しようとした六実が直ぐに手を引っ込める。こんなことで腕が吹っ飛んでしまったら、後悔先に立たずだ。
「いや待てよ。爆弾仕掛けるんだったら、ハッチから犬なんか送り込まないで、素直に爆破すりゃぁ良いんじゃね?」「そうとも言う」「いやいや」「ほら『証拠隠滅』かもしれないし」「それもあるな」
三咲は優柔不断なのか? 周りの意見に対し、結局『YES』しか言ってないのと同じだ。皆苦笑い。満がやっと袋を覗き込む。
いや、単にお調子者なだけ。別に『犬が居た理由』なんてどうでも良い。侵入者の企みを阻止出来て、証拠まで入手出来たのだから。
「小町隊長の所に持ってく?」「どうだろうなぁ」「犬ですしねぇ」
三番隊の小町隊長は毒物を扱うのが得意なので『死体』を集めるのが趣味だ。勿論『死体の一歩手前』の方が喜ばれるし、『二歩手前』なら大歓迎してくれるだろう。後ろ手に注射器を持って。
難点と言えば『猫派』な位。犬は自己主張が強くて嫌いらしい。でっかい声で『一番! 一番!』と吠えるから。
「猫みたいに小さいし、それに死んでて鳴かないから『ワンちゃん』ありかも?」「三咲ぃ。上手いこと言うねぇ」「んん? 何が?」




