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海底パイプライン(二百九十四)

 勢い良く伸ばした手を、無情にもパチンと振り払う。

 それだけではない。覗き込んでいた三人が後ろに下がり、ハッチを閉めようとしたではないか。もし閉められたら、この小さな部屋は真っ暗になってしまうだろう。手のひらサイズの覗き窓があったとて、照明が無ければ『真暗』と言わせて欲しい。

 ふと『火が点くか』と思い出して、直ぐに打ち消す。酸素を自ら急速に消費してどうするのだ。


「チョットッ! 開けろっ!」『はいちょっと』「ふざけんなっ!」

 少しだけハッチが開いた所で何になろうか。満は遂に足を振り上げ、ハッチを蹴ろうとする。が、バランスを失って倒れてしまった。

 すると直ぐにハッチが開く。『何だ。助けてくれるのか?』と思う間もなく、そうでないと判った。情けない姿を良く見るためだ。


「ちょっとだけ息継ぎっ!」『何だよ。しっかりしろよぉ』

 厳しいことを言っている先輩達も、初めての暗所に向かうカナリヤに対し、一応は『優しい所』を見せたかったのか。満がハッチから顔を出すのに、妨害工作まではしなかった。

 押し込むこともしない。寧ろガスマスク上。前髪で隠れている部分を手でたくし上げ、満に理由を説明する。


『これなぁ? 酸素ボンベと繋がってるから、単独で使えんのよぉ』

 三咲のおでこには『63』と記載されていた。

『お前用の酸素ボンベ無いからさぁ』『欲しかったら奪い取れぇ?』

 右隣りは632。となると、左隣は633か。そういうこと?

 何だ。洋子は『ナイフに刻まれてる』って言っていた奴が、六番隊はガスマスクと酸素ボンベなのかよ。満は一瞬で理解した。

 道理で貸してくれない訳だ。いやいや。基本的人権、無いか。


『良いから早く降りろ』『諦めて逝け』『うちらも直ぐ行くから』

 狭い場所で、自ら酸素ボンベを所持して行くとは。そこは確かに『特別な場所』であろう。そもそも人間波酸素濃度ノーライフノーオキシジェンニ十一%でなければ生きられない。多くても少なくともダメ。だから窒素ガスや二酸化炭素を充満させている箇所に、酸素ボンベは欠かせないのだ。


「チッ。ケチッ」『んんー?』『何か言ったかぁ?』「いいえっ!」

 そんな場所に比べれば、外気を取り入れている『この区画』は割かし安全とも言える。新人のトレーニングには良い場所だろう。

 それに、ガスマスクを初めて装着した所で『まともな作業』など出来るはずもない。先ずは『ガスマスクの使い方』からみっちり勉強して貰って、そうだなぁ。水中でもパッパと動けるようだったら『699と良い勝負』だろうか。うん。

 そしたら『ナイフ戦』でも『指相撲三本勝負(小指有)』でも、はたまた『野球拳』でも良いから、入れ替え戦をしてくれ給え。

 どっちが勝つか『賭けの対象』にさせて貰うから。


『カンカンカン』『気を付けてなぁ』「! コラッ閉めんなっ!」

 首まで降りた所で、ちょっと動かしただけでコレだ。冗談なのに。

 三咲はハッチを全開にして、633に『先へ行け』と合図した。目が真剣だ。指示された方も然り。続いて『お先に』と手を上げた632が。最後に警備の六実に合図した時だけ三咲が笑う。

 ハッチの奥からは、梯子を降りる音だけが聞こえて来るが、それも段々と小さくなってやがて静かになった。残されたのは六班の奴らだけ。ガランとした通路の先を見続けているが、一言も無い。

 警備を続ける側に最初から笑いなんて無い。彼らも同じ六番隊が故に同じ思いだ。冗談を飛ばし合うのは下に行く奴らだけで良いと。

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