海底パイプライン(二百九十二)
渋い顔で満が言う。その気持ち判らんでもない。しかし、プーちゃんがあくまでも『予備』たる由縁は、ちゃんと存在するのだ。
ほら、取り出した三咲が渋い顔をしている。
『これさぁ、一種類しか検知出来ないんだよねぇ』「何がですか?」
ちゃんと説明してくれたのに、満は聞き返した。三咲は顔を上げる。どうやらここは、ちゃんと説明しないとダメなようだ。
『いやぁ、海底パイプラインの点検通路なんだけど、場所によって違う毒ガスが充満してんだよ』「はっ? 意味判んないっす」
満はもう一度プーちゃんを覗き込んだ。まだ『プー』とも『ピー』とも言わないので、ここは『安全』と言える。のか?
『それもこれも防犯のためさ。ここは火が点いてて解り易いけどな』
その為の『覗き窓』であった。満は自分でも中を覗き込む。
しかしハッチの隙間に顔を近付けると、何だか『毒ガスを吸ってしまいそう』な気がして嫌な気分だ。息を止めていれば良いか。
耳を澄ますと送風機の音が聞こえて来る。どうやらハッチの奥は『小さな部屋』になっていて、その先にも四角い扉が。
見れば送風機は、扉の一部として機能しているようだ。
「これ、どうなってんですか?」『今、火消しただろ?』「えぇ」
三咲が『消火』のボタンを示した。そして覗き窓を指さす。
『こんな所で火燃やしてたらいつか消えるじゃん? 知ってる?』
「馬鹿にしないで下さいよ。それ位知ってます」『あぁそう』
満は『毒ガスの種類』が判った。二酸化炭素だ。説明は続く。
『そうしたらな、送風機が回って『汚れた空気』が点検通路の方に送られるんだ。良く出来てるだろぉ』「いや、ダメじゃないですか」
満は顔を顰める。どういうこと? わざと火事を起こして、二酸化炭素が充満したら点検通路に送り出す? ふざけたことをする。
『だから人間様が入る前に『カナリヤで確認しよう』って魂胆よぉ』
三咲が最終的に指さしたのは満である。ニッコリ笑いやがって。
「いや俺も人間ですってっ! 死んだらどうしてくれるんですか!」
『どうもこうも。なぁ?』『えぇ。次のカナリヤを連れて来る?』
「ちょっとちょっと。酷いじゃないですか」『だってお前、それを承知で隊長に『入れてくれ』って懇願したんじゃねぇの?』『そうだぞぉ? 仕事しろぉ?』『しかし隊長も親切だよなぁ。これならカナリヤより解り易くてイイや』「……」
返す言葉が無い。『カナリヤになる』を満は、『籠に入れられて、ピーチクパーチク鳴いていれば良い』のかと思っていた。飯食って。
もし本当にそうだったら、楽な仕事である。
『因みにプーちゃんはCOの検知器なぁ』「知ってます。二酸化炭素ですよね」『ちげぇよw』『二酸化炭素なのに『二』無ぇジャン』「えっ? じゃぁ何ですか?」『一酸化炭素だよ。一酸化炭素ぉ』
先輩達が呆れている。満は学生時代『化学の時間は睡眠時間』と決めていたのがバレてしまったようだ。しかし納得はしていない。
「そうなんですか?」『そうなんですかじゃねぇ。聞き直すなよw』「でも『CO』にだって、何処にも『一』無いじゃないですかぁ」
すると先輩達が驚いた顔をして顔を見合わせたではないか。どうやら偉そうにしている先輩達を、満は論破してしまったらしい。
『どっちかは吸ってみれば判るから、行けっ!』「ちょっうわっ!」




