海底パイプライン(二百九十)
やっぱり山田は『カナリア扱い』らしい。生物学的に見れば四人なのだが、多分記録上は三人と一羽なのだろう。
会話が出来て、籠に入れてなくても逃げないカナリヤは相当珍しいだろう。三人の後に続くピーだが、その後ろからも呼ばれていない隊員が付いて来る。ピーは少し早歩きになって前の隊員に聞く。
「あの方達は、何しに来るんですか?」「んん?」
当然のことを聞かれて622は肩を竦める。そりゃぁ相手は来たばっかりのカナリヤだから? 知らないのも当然だ。
「何で付いて来るんだ? だってよ」「おぉおぉ?」「何だぁ?」
折角気を遣って『前の隊員』に聞いたのに、後ろの隊員に答えを求めるんじゃない。顔はニコニコ笑っているが多分怒ってるぞ?
「三代目ピーちゃんは口が達者だなぁ」「まぁその方が助かるけど」
良く判らん。笑顔が柔和なのと小柄なのもあって、怒っているようには見えない。それどころか、傍から見たらピーが『引率の先生』に見えるだろう。遠足でヤンチャな班を監視する役割として。
「もしかして、俺達のサポートは要らねぇってかぁ?」「そっちぃ?」
突然、背中に背負っていた自動小銃を構える。至極滑らかな動きだ。するとピーは思い出す。洋子は『銃も取り扱う』と言っていた。
いつかは自分にも『支給される日』が来るのではないかと。
「それ、本物ですか?」「面白いこと言うなぁ」「調べてみる?」
『スチャッ』「うわっイイデスッ! 止めて下さいっ!」「アハハ」
冗談でも止めて欲しい行為だ。しかし隊員も銃口を貴重なカナリアに向けたりはしない。ちゃんと『振り』だけだ。
「スゲェな。三代目ピーちゃんは、銃も要らねぇってかぁ?」「きっと『俺が居れば十分』って、ことなんでしょうねぇ」「流石ぁ」
どの辺が十分で、どの辺が流石なのかは判らない。ちょっと聞いただけなのに何倍も言い返され、挙句玩具にされるとは。
「六班は『ハッチ周辺の警備』だよ」「えっ?」「誰が居るか判んないだろ?」「班長の六実だ」「俺は2」「ハチィ。よろしくぅ」
不憫に思ったのか622と623から説明が。それに応じた六班の自己紹介は二秒で終わった。ピーにはそれでも十分である。ペコリとお辞儀。どうやら後から付いて来るのは、66と662と668の三人らしい。しかし本当に番号で管理されているのか。
「六実って、お名前ですか?」「コードネームだよ」「へぇ」「家は班長にだけコードネームを割り振ってんだ。カッコイイだろぉ」「そうなんですか」「家の第三班は三咲なぁ」「三咲だ」「よろしくおねがいします」「おう」「因みに、一班から順に、初富、二和、三咲、豊四季、五香、六実、七栄、八街、九美上なぁ」「はぁ?」「言っとくけど覚えられなかったらピーちゃんのままだからなぁ?」「覚えますっ!」「じゃぁ言って見ろ」「初富ぃ三咲ぃ」「もう飛んだw」「六実ぃあっ五香ぉ」「おいw戻ったぞ?」「豊四季? 在りましたよね?」「あったなぁ」「あとはぁ……八街っ!」
何か『聞いたことある所』だけを言ったような気がするピーちゃんである。実は千葉県民であるのだが、上総亀山の生まれらしい。
「ダメェお前当分『ピーちゃん』で決定な」「えぇ三咲隊長のは言ったじゃないですかぁ」「そうか。判ったじゃぁ俺が命名してやるよ」「えっ良いんですか?」「班長特権で」「スゲェ」「この任務中だけだぞ?」「ハイッ!」「んんー。じゃぁ飯山満で」「誰?」




