海底パイプライン(二百八十六)
「お前ら配属先は決まったのか? 道夫、お前んトコ補充したか?」
突然現れたのはお頭だ。一番隊隊長の隆司が後から付いて来る。
配属が決まって『あっちに行ってろ』と言われた奴らは、お頭の視界の外にいた。それでもただならぬ雰囲気を察してか、笑顔は消える。何せラフスタイルだった隊長達も、姿勢を正したからだ。
「四番隊は補充終りました」「良し。京子は?」「家ですか?」
思い出したようにクルンと振り返って京子に問う。
四番隊から確認してしまったと思い、『上から順』なのか。それとも『五所川原家』に気を遣ってのことか。又は両方。
「連れて行きたいような奴が居たら、遠慮なく言ってくれ」
京子を見たまま、新人をグルリとひとっ括りに指さして。
まるで人材のバーゲンセールか、はたまた福袋か。言われた京子は笑顔で小首を傾げる。
「大丈夫です」「いつものこととは言え、つれないなぁ」
安売り、纏め売りは失敗したご様子。明るく肩を竦めるしかない。
「去年の奴らとか、新人じゃない方が良いならそれも有りよ?」
お頭は随分と親切ではないか。これには三番隊以下の隊長達も良い気はしない。折角育てた部下を引き抜かれてしまう訳だから。
「あぁ。それでも大丈夫です」「何だぁ。欠員とか出てないの?」
明確に手まで振って断る京子に、お頭は拍子抜けだ。
川崎の事情をそこまで詳しくは知らないが、だからこそ『息の掛かった部下』を捻じ込みたいのに。笑顔で語り合う二人だが、京子もそれを重々承知してのこと。五所川原家のお頭が一番煩いし。
「家はココと違って平和なので。中々欠員とまでは行かないので」
「そうかぁ。平和かぁ。じゃぁ、しょうがないなぁ」「すいません」
苦笑いになって交渉打ち切り。謝罪も口だけで、心ここに非ずだ。
因みにだが、川崎を預かる二番隊は、副隊長クラスまで『五所川原家』のメンバーが占めている。五十嵐を名乗る者は皆無。
「何だったら隊長連れて行っても良いよ? 洋子ちゃん行くぅ?」
今度はしっかりと振り返って洋子の方を見た。驚いたのは洋子だ。
「えっ、良いんですか? 泳いででも何でも行きますけどぉ?」
少々『嫌味』も入っている。さっき京子が新人に『明日までに泳いで来れたら入隊させてやる』旨を伝えていたからだ。しかしお頭は笑い出す。当然そんなやりとりがあったとは知るまい。
「そりゃぁ洋子と言えども無理だろ。鮫に食われちまうよ」
何だか『距離』の方は心配していないようだ。いや無理だけど。
「あら。鮫が来てくれるんだったら、背中に乗って早く着くかも?」
取り出したナイフで『サクッ』と刺したのは鮫の背中か。そのまま乗っかって、今度は『暴れ牛』ならぬ『暴れ鮫』だ。
鞭まで取り出して加速させた所で、お頭は京子の方に振り返った。
「ごめん。やっぱりダメみたい」「いえいえ。私もそう思います」
お頭もガッカリしているが、一番ガッカリしているのは明らかに新人達である。耳を澄ませば『溜息』が聞こえたであろう。
「良し。じゃぁ、これで配属決定だなっ」『?』『!』『?』『!』
「諸君、硫黄島警備保障へようこそ。諸君はこれから名前を捨て、『ナンバーズ』として活躍して貰うからよろしく」「ハイッ!」
本当は『名前を覚えるのが面倒だから』てのは秘密である。
「他の隊長達も補充が終わってんなら、後は洋子ちゃんよろしくぅ」




