海底パイプライン(二百八十五)
「定員なのに、そんなに採用してどうすんのぉ?」『チッ』
新人達の喜怒哀楽を目の当りにして笑っているのは京子だ。
『ボソボソ』「雅人は戦闘狂だから、隊員が可哀想」「煩ぇなァ」
使い道を知っているからこそか。小町が新人に同情の意を見せる。
すると舌打ちをした雅人が、早くもブツクサモードだ。
「部下をどう使おうと、俺の勝手だろうがぁ」「鬼畜の所業」
笑いながら一言ご意見申したのは道夫だ。『一つ上』だからか、それとも『五十嵐同士の私闘禁止』が故にか。雅人は我慢している。
隊長達のやりとりを新人達もつぶさに観察している訳だが、果たして『我も五番隊へ』と挙手して良いものか迷う。
「去年の新人と『入れ替え戦』でもするの?」「あぁ」「やっぱり」
タイミング良く質問したのは洋子だ。雅人は頷く。新人も頷いた。
成程。確かに『強い者がナイフを手にする』のだと。聞いた通りだ。しかし待機中の新人に一人『敗者復活した奴』が混じっていた。
本当に『ナンバリングナイフ』が貰える保証は無い。挙手だ。
「二対一位のハンデで、丁度良いだろう」「三対一にしといたら?」
質問を投げ掛ける前に、雅人の提案に洋子が余計な助言をしている。あろうことか『もっと採用せよ』と、新人達をグルリ指し示す。
すると雅人も右手を顎に当てて、考え始めたではないか。
「あのぉ、すいません」「良しっ、お前来い」「えっ、えぇえぇ」
何も学んでいなかったらしい。何か喋ったら即『五番隊へ逝ってらっしゃい』になると。今は『雅人のターン』なのだから。
「あと何人採る? イチ、ニィ、サン。三対一になりそうじゃん」
勝手に残弾を数えた洋子が雅人を見て微笑む。その笑い方。『私の隊には要らねぇけど』と、言っているのと同義である。
「お前ぇの指示は受けねぇ」「あら失礼」『洋子ざまぁ』『弱ぇ』
雅人にだってそれ位のことは判る。先輩だからか当りも強く撥ね退けた。雅人は洋子が『好みではない』らしい。かと言って洋子も雅人と深く関わりたいとも思わぬか。肩を竦めて傍観するのみだ。
『ボソボソ』「使えそうな死体は家に回して欲しい。何人でもウエルカム」『死体ぃ!』『このねーちゃんヤヴェ』『サイコパス!』
新人達は一斉に副隊長を見て、直ぐに小町へ視線を移す。無表情。
「そんなに死んでたまるかよ」『死なないの?』『五番隊行くぅ?』
雅人は小町にも強く当たるのか。もしかして『女が嫌い』とか。
いや、今は雅人のことなんてどうでも良い。この先生きのこれることの方が絶対優先。ここは思い切って挙手。それで決まりだ。
『ボソボソ』「瀕死の怪我人でも良いけど。トドメはこっちで刺しといてあげる」『いやいや』『無理ジャン』『ダメだったぁっ!』
罪の意識とか、そういうものを期待していた新人達であった。しかし、都合良く忘れてはいまいか? 盗んだバイクを『借りた』と言い切った日々を。『俺の行先に足を勝手に置くな』とか。
「死体なら、そっちに回すのに。今朝の採れたて有るよ?」
道夫がお勧めしたのに、小町はちっとも嬉しそうにない。本人は無表情だが、事情を分かっている副隊長が先に渋い顔である。
『ボソボソ』「それって洋子が始末した奴でしょ?」「そうだけど」
『ボソボソ』「じゃぁ要らない。どうせぐっちゃぐちゃで使えない」
苦笑いの洋子が肩を竦めて新人を見た。いや『こっち見んな』だ。




