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海底パイプライン(二百七十三)

 心に思っていることは態度に出る。特に『自分を押さえる』ということをして来なかった奴らは。付き従っているように見えて、何だったら自分が真っ先に逃げる。振り返ったら居ない。

 新人達はそんな連中であると洋子は認識している。『今年が特に酷い』でもなく『年々酷くなる』でもなく、常にそうなのだ。常識。


「三ツ星レストランはイイよぉ。特に人の金で頂くなんて、最高ぉ』

 最低だな。全員が洋子を見て思う。きっと『ハニートラップ』を仕掛けに行ったときであろう。さっきからコロコロ豹変する性格を見れば、落としに行ったときはさぞや凄いのだろう。とは思う。

 が、事前に知っていれば絶対に『付き合いたくないオンナ』だ。


「もう前菜からして普通じゃなくてねぇ」『ハイハイ』『ハイハイ』

「凄く繊細で手が込んでる」『良かったね』『良かったね』

「そんな料理を見て、香りを楽しんで、味わって、季節を感じる」『何言ってんだこのアマァ』『お前ぇからは死臭しかしねぇよっ』

 段々と大きくなる『ノイズ』だが、洋子は澄ました顔で話続ける。気分は優雅なひとときを過ごすテーブルへひとっ飛び。揺れるロウソクの炎を眺めながら、このまま『スープ』『メイン』『デザート』まで話し続けるのか? 第二問はいつ出るんだ?


「そういう店に求められる『コック』って、どういう人だと思う?」

 あれ、日本語の文法上、聞かれたから『今のが二問目』なのだろうか。新人達は顔を見合わせる。何だか『雑談』と区別が付かなくなっていた。誰も答えないのは、頭の片隅には『間違えたら落とされる』がこびり付いているから。全員が『誰か答えろ』と思う。


「はい田中ぁ」「えっ俺ぇ?」「いつまでも一番前にいるからだよ」

 どんな理由。田中は自分を指さしていた指で後ろを指す。

「嘘っ、移動して良かったんですかぁ?」「フッ。別に悪いなんて一言も言ってなぁい」「あっ、じゃぁ、後ろに行かせて頂きます」

 言うが早いか一礼して後ろへと行こうとする田中。しかし、笑っているが、洋子もそれを許す訳が無い。


「おそぉい。答えてから行けっ!」「マジすか」「その代わり、次の問題は『後ろから』指すからな」「えぇえぇ。意味ねぇジャン」

 条件付きだが、意外と優しい一面を見れた気がした田中だが、本当に『せい』だった。


「はい答えて」「料理が上手な人です」「それは当たり前ぇ。同程度の腕前なら、その中で誰を採用する? はい水谷ぃ。逃げるなっ!」

 田中は逃げずにその場に留まっていた。しかし水谷は、自分の方に歩いて来た洋子を見て、目を合わせないように移動中。

 いや、本当に『移動OK』だっとして、移動に何の意味があるのか考えていないのだろうか。考えていないのだろうなぁ。


「えっと、あぁ『素直な人』です」「良し。正解だぁ」「おぉおぉ」

 思わぬ正解にどよめく。苦し紛れに出した割には良かったではないか。洋子も軽く拍手しながら元の位置に戻って来た。


「良いか? 目的を忘れてはならない。三ツ星レストランに客が来る目的は『シェフの料理を食べること』である。誰だか知らぬ奴の料理だったら、高い金を払ってまで来たくはない。そう言うモンだ」

 しかし全員が思っている。どうせシェフは『見てるだけ』なんだろうと。『実際には作っていないじゃないか』と。


「シェフが指示した通りに出来る奴。これが必須条件。肉を焼けと言われたら肉を焼く。そこで『僕は女体盛が得意なんですぅ』って言う奴は、三ツ星レストランには要らなぁい」『そんな奴居ねぇよ』「幾ら腕が良くても、言うことを聞けない奴は『不合格』だっ!」

 多少遠回りだったかもしれないが、新人達は『洋子の言わんとしていること』が、何となく判り掛けていた。


「ナイフで戦えと言われて戦わない奴。休めと言って休まない奴」

 そこまで言って初めて理解する。この『訓練の意図』が。

「そういう奴は目的を忘れ、必ず失敗するぅ。良いか? 必ずだっ」

 話しながら、新人から見て横向きに歩いていた洋子だが、急に足を止め、新人の一人一人を指さした。『大丈夫か?』と問うている。


「これから色んな注意事項、禁止事項、島のルールを説明する。絶対に守らなければいけないことだらけだっ! まともな訓練が出来ないような奴に、日本の重要な資源たるガリソン施設を、任せるなんてことは出来ないっ!」『ルールかぁ。めんどくせぇ……』

 洋子の口から教官染みた言葉が出るなんて思ってもいなかった。


「そこっ! 今『めんどくせぇ』とか思っただろっ!」

 ツカツカと早足で歩み寄る。当然のようにナイフを首筋に。

「思ってませんっ!」「本当かぁ?」「本当ですっ!」

 喉元に『チョンチョン』と刃先が当たっているのを感じている。

 全く。麻雀の親じゃないんだから、この間は理牌か?


「……まぁ良い。でもな、そういう奴が一番危ないっ!」

 ナイフを手にペチペチしながら離れた洋子がナイフを水平に。

「お前みたいな奴が『火気厳禁』って場所で銃をぶっ放すんだっ!」

『銃、支給されるんだ!』『撃てるんだ!』『早く撃ちてぇえぇ』

 洋子は新人の表情を見て『当分持たせられねぇなぁ』と思う。

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