海底パイプライン(二百七十一)
勝手に『クイズコーナー』にしやがった。聞いてない。
それでも、出された問題に答えるしかないのは確定か。出来れば『早押し』とかにして欲しい。大人しくしていれば済む方式で。
「皆の『役割』は何かなぁ? これは簡単だね。判る人ぉ?」
何と早押しではなく『挙手形式』だった。最悪だ。まるで授業のようではないか。先ず『判っています』と意思表示をしなければいけない奴。『判らないけど挙手したときの合図』は未提示だ。
「あれあれぇ? 誰も居ないのぉ?」「……」「……」「……」
全員下を向いていた。答えは判り切っているが自信なんて無い。
洋子のことだ。何だかんだとケチを付けて来るに決まっている。
『ハイッ! ガリソン設備の警備ですっ!』『ほぉ大きく出たねぇ』
『ちっ、違うんですかぁ?』『警備ねぇ何から警備するのかなぁ?』
『外敵から? ですよね?』『どうやってぇ?』『こう、戦うぅ?』
そこでナイフを『シュシュ』とやれば、突然顔色を変えるのだ。
『お前らに警備なんて任せられないっ! 先ずは便所掃除だっ!』
『ダンッ』『パッカーン』『うわっ便所掃除が良かったあぁあぁ~』
『テヘッ。間違えて『ボットン』しちゃった★ミ』『……』『……』
とまぁ『こんな感じになるだろう』と十人中十二人が思っている。
だから正直、トップバッターだけは勘弁して欲しい。心の準備が。
笑いながらの宣言だが、目は本気だ。絶対に落とされる。
すると一斉に手を上げた。すると一番前の奴らは振り返る。誰か答えてくれるなら、正解の場合だけ一緒に頷けば良いと。ヒィフゥミィ。良し。ここは洋子と目を合わしせさえしなければ、生き延びることができよう。生き延びる確率九十%。かなりの高確率。
「これ判んなかったら落とされてもしょうがないよねぇ? 田中ぁ」
洋子がナイフの刀身で、田中の頬をペチペチ叩いている。少しでも動いたら切れてしまうが、動くはずもなく。ピクリともしない。
「ハイッ!」「水谷ぃ」「はい。しょうがないです」「さてとぉ?」
今度は水谷の腹をナイフでゆっくりと突き刺していた。当然仕様通り、ナイフの刃が鞘に収納されて行くのだが、気が気ではない。
焦るだけ焦らせておいて、それ以上は何もしなかった。
寧ろ一番前の田中と水谷は『ホッ』としている。洋子が二人の前を通り越して、後列へと向かったからだ。当然、振り返らない。
「おぉおぉ? やっぱり判ってるじゃぁん。早く手を上げようねぇ」
洋子は全員が手を上げているのを確認したのだろう。今度はゆっくりと歩く。右手に持ったナイフを、左手にピタンピタンしながら。
「じゃぁ誰に答えて貰おうかなぁ? 『判ったフリ』をしていてぇ、この場を何とか逃れたいが為にぃ『嘘付いている』のにしようねぇ」
『全員じゃねぇか……』とは、新人の総意だ。田中と水谷以外の奴らは『刺されませんように』と、誤字とも言えぬ祈りを続けている。
やがて洋子は、油汗を流す田辺の前で止まった。ニヤッと笑う。
「田辺ぇ」「ハイ」「成績優秀な田辺ぇ」「いえ、それほどでも」「数学三十てぇん。確かにそうだな」「……」「インテグラル、判るか?」「……くるm判りません」「だよなぁ。イイネェ。吉沢ぁ」
肩をポンとやって通り過ぎた。今のは一体何か。誰も判らない。




