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海底パイプライン(二百六十九)

 思わず叫んでしまう気持ちも判る。誰だって『人を刺した経験』なんて無いだろう。仮にだが『刺した経験が無いとぉ、小説書いちゃダメェッ』て、法律が出来たら非常に困る。

 肉屋と金物屋から包丁とブロック肉を買って来て、『滅多刺しの練習』をしなければならないだろう。で、一人殺す度に焼肉パーティだ。太りそうだな。あぁ、焼き肉のタレも要るか。


「刺さってないでしょぉ?」「あっ、ホントだ」

 勢い良く引き抜いたナイフから、仕様通り刃が飛び出る。

「良く見てぇ」「はいっ」「油断しすぎぃっ!」「グエェエェッ」

 安心したのも束の間。腹を蹴られてしゃがみ込む。洋子の膝蹴りは反則級に痛い。しかもみぞおちに正確に入れやがった。

 刺された方がそれを見て思うのは『あっ、痛そう』である。軽い。


「ハイこっちもっ!」「!」「まだ生きてるでしょっ!」「しぬぅ」

 きっと『ぼやっと見ているな』とでも言いたいのだろう。

 手をロックしているのは洋子なのに、それを忘れて酷い言い草だ。

 しかしだからと言って『何もしない』のは、何の言い訳にもならぬ。捕まったら全力で脱出を図るべき。生き残ろうとすべき。

 翻った洋子の足が、足元を『シュッ』と通り過ぎる。その瞬間を幾ら凝視していた所で、クルリと半回転して『頭から落ちる』のは止められない。それに最後の言葉が『死ぬ』とは如何に。大げさだ。


「ホントに殺そうかぁ?」「大丈夫ですっ! まだやれますっ!」

 洋子だって鬼じゃない。悪魔。訓練なのだから、倒れる瞬間に『頭を叩き付けてトドメ』まではしなかった。手を離したのだから、当然受け身を取るべし。まさかそれ位は出来ますよね?

 何ぃ? 剣道しかやってない? あぁ、そうかぁ。それは残念だ。


「そこっ! 何やってるっ! 掛かって来いって言ってんだっ!」

 まるで何かを誤魔化すように、一人離れている奴に言い放つ。

 さっきから足元を『トントン』やっているばかりで、ちっとも訓練に参加していない。洋子が向かって来ても、まだやっているのだ。


「落ちろぉっ!」『ダンッ! パカァン』「うわぁあぁあぁっ!」

 策士策に溺れる。思いっきり床を踏み鳴らした瞬間、自分の足元が開いたものだから堪らない。コントのように『万歳』をして、重力の体験が始まる。最後に見たのは『洋子の足踏み』であろうか。

 と、そこへ、洋子の後ろから単身ナイフを突き立てる。突進だ。本人にしてみれば『完全に隙を突いた』と、思ってのことだろう。


「ハイ良いよぉ。でもぉ? 影が見えちゃってるからネッ!」

 あっさりと受け止めた後に、ちゃんと『理由』を説明してからの膝蹴り。翻筋斗を打って転がっているが大丈夫。記憶が頭には残らずとも、体にはしっかりと残っている。これが生きた『経験』だ。


「すいません。教官!」「ハイ?」「質問です」「んん? 何?」

 訓練だけあって、戦闘中にも関わらず『質問は有り』らしい。

 それは膝蹴りを食らったものの、何とか立ち上がった奴からだ。

「あのぉ、穴に落ちる落ちないの『基準』って、何ですか?」

 その間にも、床に転がっている奴らが立ち上がる。もしかして今の質問は『時間稼ぎ』なのかもしれない。違うか? いや、洋子の背後から一人来る。何と連携プレイ。『作戦』だったのか!

 どちらにしても、洋子には同じことだった。質問者を見たままヒラリと躱し、後は足を引っ掛けて転がすのみ。見事マス目に止まる。

「こいつは落とすぅ? 落とさないぃ? 『どっち』だと思うぅ?」

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