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海底パイプライン(二百六十七)

 出鼻を挫かれる。夏休みの宿題をやろうと思ったら、『早くやれ』と言われてヤル気を削がれた。今の『井田シュート』は正にそれ。

 折角『今、ろうとしてたのにぃ』との表情が見て取れる。


「あぁ、これぇ? 安心してぇ。別に死んじゃいないと思うから?」

 新人達の気持ちを先取りしてか。洋子が『ポッカリ』と開いた穴を指さした。答えになっていない。それに、真実かを確かめる間もなく蓋が閉じてしまった。いやいや、さっきから手も使わずに色々出したり引っ込めたりしているけれど、ココはどうなっているの?


「使えない奴は、ジャンジャン落として行くからねぇ。さぁ来い!」

 詳しい説明は『落ちてから』なのだろうか。それとも『生き残った者』にだけ後付けで説明か。疑問が絶えない。寧ろ疑問だらけだ。

 しかし洋子は、ちゃんと説明したつもりか。勝手に頷き、改めて新人達を見回した。『コイコイ』と腕を振り、挑発を繰り返す。


「あのぉ、教官。落ちたらどうなるんですか?」「えっ? 気になるぅ?」「そりゃぁ、一応は」「だよねぇ。落ちる訳無いもんねぇ」

 一応の意味を良い方に取り違えている。絶対わざとに違いない。

 洋子の目を見れば明らかだ。『そんなこと考えなくて良いから、早く掛かって来い』との訴えが。その内に唇を舐めるだろう。

 あっ今鼻で笑ったのは『どうせ死ぬんだから』ですね。判ります。


「いやいや。ちゃんと教えてくださいよぉ」「どうなるんですか?」

「えぇえぇ? 落ちたらぁ?」「はい気になるんで」「そぉおぉ?」

 洋子がダラリと腕を降ろす。そして三歩左へ。すると今度は、右足の踵をケツに付けるように『カクン』と曲げて振り下ろした。


『パカンッ』「うわぁあぁあぁあぁっ!」「えーっと、この穴はぁ」

 多分だが、一番説明を聞きたかった奴。しつこく質問していたのが穴に吸い込まれて行く。声が段々と小さくなる感じからして、結構な深さなのではないだろうか。と、思っていたら蓋が閉じる。


「地下通路の掘削員になるだけぇ。ハイ行くよぉ」「つるはしで?」

 構えた所に質問が来て、洋子は再び脱力。そして歩き始めた。

 すると質問者も動き出す。床と洋子を交互に見ながらも距離を取るように。当然『タンッ』と床を叩いたら即座にジャンプせねば。


「ちゃんと削岩機ありますよぉ」「給料出るんですかぁ?」

 不思議な『追い掛けっこ』が始まる。後ろ向きで、その上ジグザグに走る新人にタイミングを見計らう洋子。今のはフェイントか。

「出る出るぅ」『タンッ』「ととっ、でも『ペカリ』だったりぃ?」

 新人にしてみれば『大切な質問』なのかもしれないが、聞かれた洋子は首を傾げる。はて。『ペソ』とか『ペセタ』ならいざ知らず。

「何だそりゃ」『タンッ』「うわっいえいえ、何でもないです」「何でもないなら聞くな! ちゃんと『円』だから」「良かったぁ」

 決して良くは無い。他の新人にしてみれば、巻き添えを食らうだけに等しいからだ。現に洋子が見ていない所で、三人消えた。

「使う所が無いだけで」『タンッ』「あぶっ、えぇえぇ」「地下に店なんて無いんだよっ!」『タンッ』「うわぁあぁあぁ」『パタン』

 沢山聞けて『良かったね』と言うべきか。感想の代りに雄叫びを残し、質問魔は地下の世界へと落伍して行った。一生、陽の目を見ることもあるまい。足を止めた新人は『生き残った』と満足そう。


「ホラぁ。じゃぁ、いよいよ行くよぉ?」『あっ、やっぱり……』

 戦闘訓練はこれからか。新人達は覚悟を決める。逝くか引くかの。

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