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海底パイプライン(二百六十六)

 新人達は洋子へと襲い掛かる前に、ナイフの点検を始めた。

 どうやら真っ直ぐに突けば安全で、横に振り回しても致命傷にはならない。そんなコンセプトで作られているようだ。何故に。

 しかし『刃』は本物。何人かは確かめようとして指先を切った。今指を舐めて、自分の『血の味』を確かめている。


「ほらほらぁ。掛かっておいでぇ。優しくしてあげるからさぁ」

 洋子が挑発を始めた。井田をなお、羽交い絞めにしたままで。もしかして襲って来たら、井田を『盾』として使うつもりなのか? 

 井田はさっきの威勢はどこへやら。ぐったりと俯く。それでも『盾としての性能』に些かの陰りは無い。寧ろ本人もそれを望むか。


「前からでも後ろからでもぉ。私も『コレ』使うからぁ安心してぇ」

 どういう仕掛けなのか判らないが、切先を斜めから押した場合は、刃が引っ込まない。だから安全のために『真っ直ぐに刺せ』と言いたいのだろうが、今の新人にそんな器用なことは望めない。

 偶然刃が届いたなら、例え洋子でも手に伝わるのは『人を刺した感触』である。二度言うが洋子でも。誰も経験したことなんて無い。

 無いから安心せい。かもしれないが、しかし『安心材料』は有る。それは洋子の方も『訓練用ナイフを使用する』と宣言したことだ。

 嘘か偽か知らないが、真っ直ぐに突き刺してくれること請け合い。目の前の井田のように。あれ、もしかして『次の盾』もあり得る?


「あっ、ごめーん。一つ注意言い忘れてたぁ。結構重要なことぉ」

 勇気を出して一歩を踏み出した所で洋子の声。しかも謝罪だ。

 素直な新人は『謝っているなら仕方ない』と思ったのか、一斉に足を止めた。一瞬だが互いに顔を見合わせ『お前が次の盾だ』と、立場を確認した都合もある。真相は『嫌なことを先延ばしにしているだけ』という説もあるが、今は誰も口にしない。洋子に注目だ。


「これねぇ、握力七十以上で握ると、ナイフが引っ込まないからぁ」

 見るからに『グッ』と握り締めて、洋子は井田を刺す。

 躊躇が無いのは相変わらずだが、今度は奇声も勢いも無い。すると洋子の握力は七十キログラムも無いのだろう。突き立てた刃が、井田の腹で虚しくピコピコと出入りしているだけだ。

「いや、意味ねぇし」「そんなに無いっす」「あら嬉しい情報ねぇ」

 一様に否定する新人達を見て、洋子も嬉しくなったのだろう。

 流石にこれだけの人数で取り囲まれ、一斉に切り掛かったら、洋子だって無傷では済むまい。その際の『怪我をする確率』は、低い方が良いに決まっている。なんせこれは『訓練』なんだし。


「くっそぉおぉっ!」「おぉおぉ。元気出て来たぁ? イイネェ」

 井田の反撃を食らって何が良いんだか。二人の表情が対称的だ。

 散々弄ばれて頭に来たのだろう。それとも、洋子に飛び掛かった『第一人者』としての誇り故か。腕と足をバタつかせ、必死の抵抗を試みる。井田に言わせれば『このまま盾なんかになってたまるか』であろう。しかし虚しいかな。拘束は解けず、蹴りも躱されている。

 再び一歩を踏み出した新人達も驚いて立ち止まり、只見守るのみ。

 そりゃぁ突然『盾』が暴れ出したら、誰だって驚くさ。まさか『仲間を刺したら気分が悪い』なんて理由では、あるまいて。


「勘違いしちゃだめぇ。盾なんか要らないんだからっ!」『ドスッ』

 洋子が振り下ろしたナイフが、井田の足に突き刺さっていた。

 新人達は驚く。何か井田の足から『出てはイケないもの』が出ていた気がしたからだ。勢い良く『ドピューッ』と。色は何色?

 しかし確認する前に、井田の姿は突然開いた『床の穴』に消えた。

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