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海底パイプライン(二百六十五)

 かったるそうに両手を振っている。国により『ジェスチャーの違い』はあるだろうが、洋子のそれは『来いよ』で間違いない。

 見れば片方に『訓練用ナイフ』を握っている。刃渡り十センチ。

 ナイフと言うが、実際には『短刀』に近い。ちゃんと鍔が付いているので、持ち手だけ見れば一瞬『刀』と見まごう。しかし刀身を見れば、嫌でも『短けぇ』と思うだろう。何の訓練をするんだか。


『シュッ』『パシンッ!』『カラーン』『ドスッ』「うっ」

 突然な上に『情報量』が多過ぎて、誰もその場から動けない。

 血の気の多い新人の井田が洋子にナイフを突き立てたのだ。

 さっきのアドバイス通り『後ろから』である。文句は言わせないとばかりに。余程『このとき』を狙っていたのか。


「ハイハイ良いよぉ。ちょっと『ナイフ』について、注意事項ぉ」

 しかし洋子は後ろにも目があるようだ。ニッコリ笑ったままナイフを避け、伸びた腕を捉えて叩けばナイフがポロリと落ちる。

 その後は軽めの膝蹴りを食らわせてからの、羽交い絞め状態だ。

 洋子は説明のために、自分のナイフを高く掲げていた。


「刺すときはコウッ! 真っ直ぐに突き刺す!」『グサッ』

 それを表情一つ変えずに井田の腹へと突き立てる。笑顔のままで。

 刺した瞬間膝蹴りよりも凄い音がして、井田の体が二つに折れ曲がった。足も少し浮いたんじゃね? 拘束は解けない。そのままだ。

 洋子は口をパカンと開けて『判ったかなぁ?』を表現。楽しそう。


『ゲェェェッ』「汚なっ。あぁ躊躇ぉ? そんなものは要らなーい」

 でしょうね。井田の口から『何か』が出て来て、洋子の表情が一瞬曇る。しかし顔を上げ、新人達に向かって首を横に振りながら『否定する様』は、天真爛漫な洋子の性格を良く表している。

 ナイフを井田から引き抜くと、洋子はもう一度振り上げた。


「振り被ってぇえぇっ。真っ直ぐにぃいぃいぃっ。刺ァスッ!」

 タップリの『溜め』の後に甲高い声でひと突き。再び井田の体が二つ折りになっていた。井田は勿論だが、他の誰もが何も言えない。

 しかし『折角の実技』だったのに、半分は目を反らす。見ていない。残りの半分も漫然と見つめているだけ。洋子との『実力差』をヒシヒシと感じてのことだろう。あぁ、これで本日『六人目』だと。


「真っ直ぐに刺すとぉ、刃渡り以上に食い込むって、知ってたぁ?」

 ふと思う。実力差を感じたら『逃げて良い』のではなかったかと。

 それにしても、禄でもないことを教えやがって。そんなの誰にだって判ることなのに。人一人の命を使ってすることか?

 洋子はナイフを再び引き抜き、今度は首筋にそっと当てる。


「横に振ると、大して中まで入らないからぁ。それに、折れる」

 首筋に刃を当てたまま手を向こうへ動かすと、言葉通りナイフの刃が鍔の所で折れる。手前に引けば真っ直ぐに戻る辺り、それは『ナイフの仕掛け』なのか。洋子が笑顔である理由が判った気がする。

 今度は再び腹に当てる。そしてゆっくりと刺し込めば、腹に押された刃が柄に収納されて行くではないか。脅かしやがって。

 見れば井田の口から出たのは『涎』であって『血』に非ず。当然、腹からだって血は出ていない。しかし金物でど突かれたのだ。あれだけの勢いなら、内出血はしていてもおかしくはない。


「ホントだぁ。これ、押すと引っ込むじゃん」「何だぁ。ビックリしたぁ」「でも斜めに押したら引っ込まなくね?」「刃も本物ぉ?」

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