海底パイプライン(二百五十七)
『ダンッ』『スゥゥッ』「ハイ。注目ゥ」「何だあれ?」「スゲェ」
洋子が中央付近で床を強く踏み込むと、床の一部がせり上がる。
何と言う仕掛けだ。物珍しさも相まって、新人達も集まって来た。来る見る間に腰の高さまで上がって来ると、洋子が手慣れた感じで蓋を開ける。見えたのは細長い箱が多数。サングラスだ。
「新人にはね、サングラスが支給されるの。どれでも一つ取ってぇ」
ニッコリ笑って洋子が両手を広げる。そして離れて行く。
黒服には付き物の奴か。わっと集まった新人達にも見覚えがある。
例えばマグロ漁船に乗る前、案内係の黒服がサングラスを付けていたし、マグロ漁船の随所に立っていた警備の男もそうだった。
最初に見たときは、ある程度の『威圧感』に気圧されたものだが、自分がいざ『黒服』に、いや、まだ『作業着』なのだが、黒服になったとしたら、あんな風になれるだろうか。
「どれでも良いんですか?」「良いって言ったよねぇ。何度目ぇ?」
洋子が一瞬振り向き、ぶっきらぼうに答えた。準備体操を邪魔されて機嫌を損ねたか。聞いた方は思わず肩を竦めるのみ。
会釈して一つ手にしたが、余りの恐ろしさに『すみません』の一言も言えない。目が凄く怖かったのだ。しかしまぁ、柔らかい体。
初っ端からそんなに『圧』を掛けなくても、良いではないか。
「みんな一緒ですか?」「さぁ」「違うんですか?」「さぁあぁ!」
今の質問は『お初』のはず。しかしお初だろうが何だろうが、洋子に『意味のない質問』をした所で、まともな答えは得られない。
それも判らず繰り返せば、例えそれが『当人はお初』であっても関係無い。懲罰確定。二人共良く判っただろう。他の奴らもだが。
しかし、聞いた方にも一応の理由がある。箱のデザインに、幾ばくかの『差異』を認めたからだ。裏返してみれば説明にも差異が。
『パンッ!』「ハイ。じゃぁ二人組作ってぇ。誰とでも良いよぉ」
まだ選択中の新人も居たが、洋子の合図で一つ手に取る。
誰とも言わず箱から出してサングラスを掛けた。当然暗い。一人が空箱を放り出せば、周りの奴らもつられて放り投げる。箱より鏡。
「おい田中。俺と組もうぜ」「嫌だよ」「田中は俺と組むんだ。なぁ」「止めてよ」「何だテメェ。田中が嫌がってんじゃねぇかよ」
サングラスを手に持ち『箱の裏』を読んでいた田中であった。
だが、急に二人から呼び止められて怯えるばかりだ。もう少し説明書を読む時間が欲しい。しかし、そうも行かないのが現実。
「お前ら二人が組めよ。田中は俺と組むって、法律で決まってんの」
ガタイの良い高峰がやって来ると、田中を奪い合う二人を指さす。
すると一瞬、高峰の方を二人は見たものの『チッ』と聞こえるように吐き捨てた。弱そうな田中を獲りに行って、自分の首が獲られたくはない。精々『テメェのせいだ』と互いに罵り合う位か。
「なぁ中川ぁ、そんな奴より俺と組んだ方が、ぜってぇ得だってぇ」
見ればあちらこちらで『駆け引き』が続いていた。人気者は辛いね。しかし、なかなか決まらないのも無理はない。この場に居る全員が思っていた。どうせこの後は『殺し合いになるのだろう』と。
『パンッ!』「はぁい。あぶれたのは私と組もうねぇ。誰かなぁ」
突然出た『死刑宣告』に一同は焦り出す。すると洋子が笑いながら、一人でウロウロしている奴に近付いて行く。この死神め。
「ねぇ、私と組むぅ? 初めてなら『優しく』してあげるよぉ?」




