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海底パイプライン(二百五十二)

 どんな屑にでも人権がある。生きる権利も。多分。恐らく。

 現在の帝国憲法に『なん人たりとも生きてて良いよ』という、明確な条文があるのかは定かでない。別にここで『憲法討論』をするつもりはないのであしからず。今問題にしているのは、洋子が『ゼロ』と言った瞬間、新人に『死ぬ権利』が与えられるか否かだ。


「イチッ」『ゴン』「うっ」『ガン』「いっ」「ゼロォォ」『ドン』

 左右に飽き足らず下からも来るとは。顎にヒットして仰け反る。

 洋子の表情に一切の曇りは無い。寧ろ一区切り付いて『楽しそう』とも取れる。前述の通り、憲法で『生きる権利』が保証されていようが、保証されていまいが関係ない。権利を声高に主張はしても、死ぬときは死ぬものだ。事実、新人達に不足しているのは『権利』なんかではなく、死んだときに『悲しんでくれる人』なのである。

 そもそも、今まで悪いこと三昧し放題で、親にも見放されてココに来た。故に『死んじゃいましたぁ』と報告した所で、『どちら様が?』と、言われてしまうような奴らなのだから。遺骨? 要らん。


「ヒヒヒィッ! 死んだ死んだ死んだぁぁっ! モロ決まったぁ!」

 洋子は体を反らし、右手で新人を指さして笑っている。このまま放置すれば、指した方の右手が膝を叩き始めるだろう。左手はさっきから横っ腹を押さえている。どうやら笑いが止まらないようだ。


「今『ゼロより前』に、竹が飛んで来ましたよねっ!」『ガランッ』

 竹を思いっきり廊下に叩き付けて『いちゃもん』を付ける新人。

 しかし洋子の表情を見れば『何のこと?』である。右手で膝を叩くのを止め、前に出すと手を広げ大きく縦に振る。笑いながら。


「あらそう? 気のせいじゃなぁい?」「ぜってぇ違いますって!」

 経験からして『そう言う』と思っていた。洋子はそう言う奴だ。

 しかし新人も『時間を超過した』ことには変わりない。それが『洋子のカウントダウン』と、一体何の因果関係があると言う?

 何か? 洋子が『ゼロ』と言ってから『竹槍が飛んで来る』とでも思っていたのか? だとしたら、随分とおめでたい奴だ。

 油断以外の何者でもない。実は洋子が床にある『特定の箇所』を踏んだから竹が飛び出した訳で、そもそも『カウントダウン』とは無関係なのである。勿論『制限時間』も『五歩目が違う』も嘘だ。


「それに『竹槍』じゃなかったんですかっ! いてぇだけだしっ!」

 洋子の嘘がもう一つ。それは竹の先端が尖っていなかったこと。

 お陰で命が助かった訳だが、それを棚に上げて『文句に昇華する』とは、流石は屑人間とでも言っておこうか。洋子が素早く動く。


『バッ』「もしかして『グサッ』って逝って欲しかったぁ?」

 手品のようにナイフを取り出して振り回し始めた。顔に寄せる。

「やっぱり『緊張感』足りないよねぇ」「いやいやそれは……」

 目が逝っちゃってる。舌を出してナイフを舐める洋子を見て、新人の態度が急に大人しくなった。ほんの数分前、同期の新人を五人殺めたばかりなのに、もう忘れてしまったのだろうか。

「今から『グサッ』と逝っとくぅ?」『シュッ! シュッ!』

 言葉通り、今にもぶっ刺しそうだが、口だけなのを感謝すべき。

「良いです良いです!」「えっ、良いの?」「良くないです! すいませんでしたっ!」「うーん。つまんないのっ」『バッ!』

 手品のように出せると言うことは、手品のように仕舞えると。多分『他の武器』に持ち替えたりもするのだろうが、今は手ぶらだ。


「今日は体験だけっ! 因みに仕込みは、新人の仕事だからねぇ?」

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