海底パイプライン(二百五十)
洋子は廊下に置かれた机の上に座っていた。足をブラブラさせて。
受付とか検問所『だった奴』と言えば良いだろうか。多分その類。高さからして『立ったまま使うタイプ』と見て間違いない。
今は使われている形跡は無く、洋子の椅子と成り果てている。
多分『机として』はその方が幸せそうで、浅く腰掛けたケツと小さな手の柔らかな感触をお楽しみだ。足を揺らす度に、膝下のスカートが揺れてなまめかしい。が、それも僅かな間。
洋子は足を揺らすのを止めて足を組んだ。膝頭が露わになっているが、自己申告通り、特に年齢は感じさせないおみ足である。
あれ? 自己申告すらしていなかったっけ? まぁ良いや。
「判りやすかったでしょぉ? 順番間違えると竹槍が来るからねぇ」
何処からだよ。どれくらいの速さで? 何本? もしかして『槍』と言うからには、先っぽが尖っているとか?
二番目にすれば良かった。と思っている先頭は、ポディション的に『洋子の足が良く見える位置』に陣取っている。足を組んだまま揺らし始めたので、スカートが太ももの方に跳ね上がった。
仮にだが『洋子が足を組み変えた』ら、パンツが見えるかもしれない。そんな位置。そしてあの足の振り方は、いつ組み変えてもおかしくはない。大きく振って戻す。再び振って、いや振らない。
「まぁーだぁー? おっ、二歩目せいかーい。イイネェ頑張れぇ」
折角『洋子の足』について描画しているのに、先頭は兎も角、二番目以降の新人も含め、誰も注目していないようだ。全くの無駄骨。
目が二つあるのだから、片方で正解を追っていれば十分。もう片方はもっと自由で良い筈。少なくとも洋子の同期達はそうして来た。
どうも今年の新人は、心に余裕の無い奴が多いのか。がっかりだ。
「あっと良いのかなっ! そこでっ!」「えっ? 違いました?」
左足が四歩目にあって、右足を五歩目として置こうとした瞬間だった。洋子の警告に応じて右足を空中で止める。が、寛政の改革には逆らえず、揺れる体を必死に抑え込む。確証は無いが『同じ四角の中に両足を置いたらマズイ』と思っているようだ。
「おぉおぉ? 耐えたねぇ」「さっき『ココ』でしたよね?」
右足で『五歩目』を示したものの、直ぐに右手で示し直す。
混乱していた。洋子の言い方からして、部下を思う『親切心』だったと思いたい。のんびりとした口調が突然早口になったからだ。
無事倒れなかったのを見て、嬉しそうに拍手をしているし。
「えぇえぇ? 教えないとイケないのぉ?」「あっ、いえあのぉ」
今度は動揺を加える。指令からして『ノーヒントで乗り越えろ』であったのは理解していた。だから必死に思い出し、床面に『何か怪しい所は無いか』を確認しながらの五歩目だった。彼なりに勇気を振り絞っての。九割方は後悔だが。こんな会社に応募したことを。
もしかして上司への質問の際、『足で指し示した』のがダメだったのだろうか。確かに普通の会社でも、上司に向かって足を差し出して『舐めろ』なんて言ったら、笑って済むような事態にはなり得ない。寧ろ『舐めてんのか』と言われかねないだろう。
だから『舐めろ』と言ってんのに、判んねぇ上司だなと。
「なぁにぃ? そこでステップしたとき、太ももの方見てたぁ?」
図星で否定出来ぬ。続く口パクのセリフは『エッチ』とか『変態』か。すかさず二指にてスカートの裾を掴み上げ、小指を立てながら左右に振り始めたではないか。洋子は当然のようにおちょぼ口。
右足上げしままに暫し眺むる。ガーターベルトを。潜む刃物を。




