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海底パイプライン(二百四十二)

「『命で償って頂きますぅ』だって。お前どうするよ」「おいおい。勝手に殺すな」「そうだぞ? お前が真っ先に殺されそうじゃん」

 後の方に固まった煩型が、五十嵐の真似をして笑い合っている。

 真似されている五十嵐の方はと言うと、別に変らぬ笑顔。教卓に置いた黒い冊子を開き、出席者の顔と名前を確認し始めていた。

 一人づつ名前を呼んで、ではなく、写真があるからだろう。顔を見て、もし下を向いていれば声を掛け、顔と名前が一致するかを。

 傍から見れば『○○さんですか?』と、口パクしているようにしか見えない。穏やかに名前を呼ぶ声が煩型の大声に掻き消されて。


「五十嵐ちゃん、俺、真っ先に殺されそうですかぁ?」「おいおい」

 煩型の一人が、仲間の静止を振り切って五十嵐に聞く。

 きっと本人にしてみれば、ちゃんと『ちゃん』まで付けたのだから、何も問題ないと思っている。仮にだが、もし怒られたとて問題とも思わない。だって、どう見ても喧嘩したら勝てそうだし、格闘技に至っては、喜んで『寝技に持ち込めば』とか思っている節も。


「さぁ、殺されるような人に、いちいち興味を示してられないので」

 ほらね。満面の笑顔で言われてしまったではないか。

「うわお前、言われちゃってるジャン」「何だよ。俺のこととは限らねぇだろ?」「いや今のは、ぜってぇ『お前のコト』だよ!」

 目線の動きから、五十嵐が一度は煩型の方を見たのは間違いない。

 が、既に『つづき』に戻っていた。順当に行って『煩型の番』となるには、もう少し後のことだろうか。しかし、それまで『構って貰えない』のが耐えられないと見えて、一人が五十嵐に問う。

「俺達の中で、誰が一番先に殺されそうですかぁ?」「お前だよ」

 笑い声で『うるせぇな』が掻き消されていた。流石は煩型と言った所か。しかし五十嵐の視線が思惑通りに来て静かになる。


「どうせ『殺される』のに、順番って意味ありますぅ? 横井さん」

 語尾の名前。『煩型の一人』が呼ばれたのではない。

 相変わらずの笑顔であったが、本当に興味が無いのだろう。煩型を見たのはほんの一瞬で、横井とは二列目一番前に座る『眼鏡女の名前』である。当然のことながら横井の可愛らしい返事『はい』は、煩型の声に掻き消されてしまっていた。折角眼鏡を外し『滅多に見せない素顔』を晒したにも関わらずだ。いや後ろからは見えんか。


「五十嵐ちゃぁん、酷くないぃ? 俺達、直ぐ死んじゃうように見えるぅ?」「マグロ漁船ではさぁ、『お前達一番活きがイイな』って言われてたんだぜぇ?」「ピチピチッ」「バカッ」「イテェ!」

 立ち上がってのアピールは、さっきまで机の上を歩いていた奴か。

 机の上に乗せていた足を降ろし、椅子の上に立ってのアピールだ。他の奴らも真剣な顔、でもないが『何かの真似』をしている。


「前髪上げてぇ。見せないとハイィ。命で償って頂きますよぉ」

 しかし『遂に』か、五十嵐がそれを全て無視。今は二番目の男に横井の眼鏡と同様、指示を出しているに過ぎない。故にか煩型の必死とも言える『アピール』は、全て無駄になってしまっていた。


「ねぇねぇ、ちょっと五十嵐ちゃんってばぁ。俺達シカトォ?」

 再び机の上を歩き、前へと移動を開始していた。見れば前から二番目の野郎が、前髪を両手で上げているではないか。

 すると、何か『笑える玩具』を見つけたかのような目に。歩きながら自分の前髪をわざと前に寄せると、五十嵐に声を掛ける。


「前髪があると、殺されちゃったりするのぉ? どう、似合う?」

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