海底パイプライン(二百三十八)
「これ、どうしましょうか」「うーむ。何とかならんかのう?」
若頭と若頭補佐の浦佐は顔を見合わせた。二人の前には、ポッカリと言うには大き過ぎる穴が口を開けている。若頭の眉間にシワが。
「明日までに」「ぜってぇ無理ですって!」「いや、しかしのう」「私も判りますけど、何処まで行っちゃってるか、これ、全然判りませんけど、ホントマジで、どうすりゃ良いんですかぁ?」
若頭が焦っているのも無理はない。屋上の階下『最上階』は、征剣会の理事達が使う部屋が並ぶ。
明日、幹部会で新任の理事に選出されるであろう組長は、京極組としても初の理事となって、意気揚々と御帰還あそばされる。
温泉旅行の熱気が冷めやらぬうちに、ドカッと『理事の椅子』に腰掛けることだろう。肝心の『椅子』は、床ごと無くなっているが。
「しかしコレって、思ったより『被害が少ない』と、思って良いのかなぁ?」「何処がですか」「だって、見た所『破裂』してない?」「そうですかぁ? 十分な『破壊力』だと、思いますけどぉ?」
浦佐が穴と上空を交互に見ている。そして、穴を見て斜に構えた。
上から見て『大穴』は、若干斜めになっているのが判る。手を使って『この角度か』と確かめているが、それが何の役に立つのかは定かではない。しかし悲しいかな。人間は何事にも『疑問』があれば、それを解決したい生き物であるらしい。ほら、納得している。
「この角度で入りましたね。ズガーンッと」「あぁ、んであれだろ? 非常階段をズドドドドドッと、突き破って」「何処までですかね?」「後で行って見ないとだが、五、六階は下まで行ってんなぁ」
穴の直径は約二十メートル。確か目印として『ヘリポート』があったはずだが、跡形もない。隅にあった『非常階段出口』でさえ、その下の非常階段もろとも崩れ落ちてしまっている。
しかし、奇跡的に『外壁が崩れ落ちていない』のは何故か。
「もしかして『不発弾』だったりして?」「そんなことあるぅ?」
浦佐の発言に若頭が疑問を持つ。普段から浦佐の献身的なアドバイスには、積極的に耳を傾ける若頭である。
信頼も厚いはずなのに、こと『大和の主砲弾』については疑問符を付けた。いや、この場にいる誰もが『大和の主砲弾』なんてものを、見たことも聞いたことも無いのだから。
いや『聞いたこと』は有るか。着弾音だって聞いたし。であるならば『見たこと』も有ると言っても良い? 一瞬の出来事で、見えたと言うより『感じた』と言った方が正確かもしれぬ。
あれ、もしかして『感じた』と言えるのは、主砲弾を『真正面から受け止めた者に限る』のではなかろうか。傍観したに過ぎない?
「おい四平、どうなってんだ?」「四平?」「居ませんよ?」
振り返ればそこに四平がいる、あれ居ない。若頭は急ぎ辺りを見回したが全員同じ黒服。その上サングラスでは見分けが付かぬ。が、『何時でもスマホを弄っている奴』を探せば、居ないではないか。
「あの野郎ぉ、遂に逃げたか!」「いや、若頭が『案内に行け』って、指示してましたよね」「えっ俺が?」「そうですよ。向こうの大将を『ガチ一階に案内しとけ』って」「ホント?」「えぇ。あ、因みにこれが『大和の主砲弾』です。結構デカくて、二メートル?」
若頭が今確認したかったのは正に『それ』なので、今の発言はしれっと無かったことにしておく。いや、それよりも重大な事実が。
「何だよコレ。爆薬三十キロ以上も入ってんの?」「やっぱ爆発してたら、きっと『こんなモン』じゃ済まないですよ」「だなぁ……」




