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海底パイプライン(二百三十四)

「良いじゃねぇか。減るもんじゃなし」「ダメよぉ。減るってばぁ」

 石井中佐は考える。サーベルに手を掛けたまま、一体『何を診せられているのだろうか』と。目の前に広がるは、悩める男女が二組。

 医師免許を持ってはいるが、精神科や心療内科は専門外だ。


「大尉、何が減るんだね?」「少佐殿っ! いや、中佐殿っ!」

 井学大尉は飛び上がっていた。ベルトを外されて、チャックも降ろされていたズボンを、敬礼をするのとは反対側の手が辛うじて押さえている。離せばたちまち『おパンツ』が丸見えになってしまうであろう。何色なのかはあえて言うまい。ご想像にお任せする。


「急いで来たのだがぁ、もう一度入り直した方が良いかね?」

 眉毛をピクピクさせながら言われ、井学大尉は敬礼を解く。

 膝を上げてズボンが落ちるのを防ぐには、かなり無理があった。ならばここはお言葉に甘えるのも得策か。何せ『階級』を間違えてしまったことに気が付いて言い直したとて、『今の状況がかなりまずい』のは明白であるからにして。

 有体に言えば『何でこのタイミングで上官が現れるかな』である。

 ましてや『石井中佐ご本人様が』である。いや『呼べ』と言ったのは、井学大尉本人なのであるが、それはこの際忘れている。


「是非、もう一度お願いします」「ばっかもーんっ!」「ひぃっ!」

 サーベルで刺されるのを覚悟しつつ、急いで服装を整える。同じ刺されるなら、形ばかりは『軍人らしい姿』でありたい。

 井学大尉は『ズボンの落下防止策』を急ぎ整えると、今度は上着のボタンを急いではめる。そうしたら、上着の裾をズボンの中へ。

 帽子に至っては何処へやらだ。いや、パイロットの帽子はヘルメットみたいなものであるが、それは墜落時に脱ぎ捨ててしまった。

 身支度を整えたら『さぁ、お刺し下さい!』とばかりに最敬礼。

 誤字ではない。再度の敬礼ではなく『最敬礼』の方。


「青森からとんぼ返りしてみれば、随分楽しんでいるみたいだなぁ」

「いえっ! 今のは『リハビリ』でありますっ!」「ほぉ。何のだ」

 医者に『適当なこと』を言ったのがまずかったか。返事に詰まって井学大尉は隣の遊女に助けを乞う。確か名を『雪江』と言ったか。


「何の?」「『ココの』でありんす」「ちょっ!」「大尉っ!」

 井学大尉は最敬礼を解く。雪江の両肩を掴んで揺すろうとしたが、それは無理。『雪江の白い肌』が露わになっているが故に。

 勿論、雪江がハートマーク付きで『何処』を指さしたかは、遊女ならではの『お約束』でもあった。自分に火の粉が降り掛からないのであれば、こんなに面白いことも無いであろうからに。

 雪江は呑気に首を傾げ、歯が見えないよう袖で口元を隠している。


「リハビリってのは『機能回復』をするものだぞっ!」「はっ!」

 一喝されて、大尉は再び最敬礼に戻る。脂汗も出ると言うものだ。

 やはり医者に『嘘』は通じない。この際、何事も素直に答えるしかないのだ。この先生きのこるために。


「大尉は一度でも『機能』を果たしたのかねっ!」「いいえっ!」

 大声で返事をしてから『一瞬の間』があった。

 聞いた方も聞かれた方も黙っている中、雪江の口から漏れ出る空気だけが『クックッ』と聞こえて来る。それが抑えられなくなったのか、井学大尉の背中をパチンと叩いてからの大笑いに変った。


「アッハッハァッ! 『初めて』だったのぉ? ウッウゥン残念!」

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